かがくいひろしの世界展へ ー 笑顔の魔法に包まれて ー ( 三重県四日市市の旅 : 2025-05-04 )

 

 

かがくいひろしの世界展 / 四日市市立博物館(三重県四日市市)

近鉄四日市駅にほど近い四日市市立博物館で開催されていた特別展「かがくいひろしの世界展」。

恥ずかしながら、私はこれまで「かがくいひろし」という名前を知りませんでした。しかし、博物館の入口で目にした鮮やかなポスターと、両親に手を引かれながらキラキラした目で会場へ向かう子どもたちの姿に心を動かされ、私も足を踏み入れることにしました。

かがくいひろしさんは1955年生まれ。長年にわたり特別支援学校の教員として現場に立ち続け、50歳で絵本作家としてデビュー。2009年、病によりわずか4年の作家活動を残して逝去されました。その短い期間のなかで、彼が生み出した絵本の数々――特に『だるまさんが』『だるまさんの』『だるまさんと』の「だるまさん」シリーズは、累計1000万部を超える大ヒットとなり、いまや多くの家庭や保育現場で読み継がれています。

会場に入ると、まず目に飛び込んできたのは巨大な「だるまさん」のパネル。

ふわっと丸く、つぶらな瞳に思わずこちらも笑顔になります。子どもたちがパネルの前で嬉しそうにポーズを決めている様子を見て、すでにこの展示の空間が笑顔の連鎖で満ちていることを感じました。

原画展示のエリアでは、『おしくら・まんじゅう』『みみかきめいじん』などの作品原画が丁寧に並べられていました。

なかでも私の心に強く残ったのは、『みみかきめいじん』の一場面。うーたん先生の耳かきをするひょうすけの優しい表情に、じんわりと胸が温かくなります。柔らかな線、豊かな色彩、何より登場人物たちの絶妙な「間(ま)」が、読む者を癒やし、笑顔にしてくれるのです。

絵本の完成された世界だけでなく、制作途中のラフスケッチや未完成の下絵なども展示されており、創作の舞台裏に触れることができたのも貴重な体験でした。練り直しを重ねた跡が残るページに、作品への並々ならぬ情熱を感じました。

また、展示の後半には、教員時代のかがくいさんの映像や、教え子たちとともに制作した教材の実物なども紹介されていました。教育者としての顔も深く掘り下げられており、現場での経験がそのまま絵本の世界へとつながっていることがよく分かります。その姿は、絵本作家というよりも、ひたすら子どもたちを楽しませる「遊びの天才」といった印象で、自然と目頭が熱くなりました。

展示のなかに、かがくいさんが母の通う介護施設で披露したイベントの写真もありました。被り物をして、体を張って、場を盛り上げる姿。その笑顔とパワフルなパフォーマンスには、「絵本作家」という枠を超えた、生き方そのものの魅力があふれていました。職員以上に明るく、そして優しい。そう感じたのは私だけではないはずです。

他にも、絵本の読み聞かせスペースや、子どもたちが自由に遊べる展示エリアも設けられており、大人も一緒になって「かがくいワールド」に触れられる構成になっていました。親子で笑いあいながらページをめくる姿を見て、「絵本とは読むものではなく、感じるものなのだ」と改めて実感しました。

観覧後、グッズコーナーで「だるまさんが」のミニ絵本を手に取りました。ページをめくると、あのシンプルでユーモラスな言葉のリズムがふっと心に戻ってきます。ほんの数語で、これほどまでに笑顔を引き出せるのか――かがくいさんの作品には、言葉と絵だけで世界を豊かにする魔法が詰まっていました。

今回の展覧会は、単なる「絵本作家の紹介展」にとどまらず、ひとりの人間の生き様と、その根底に流れる子どもたちへの想いを静かに伝える展示でした。かがくいひろしという人を知り、彼の温かな世界観に触れることができて、本当に良かったと思います。

展示を後にしながら、子どもたちの笑い声が耳に残っていました。あの笑顔を生み出す力を持っていたかがくいさん。その作品は、これからも多くの人の心に寄り添い続けることでしょう。いや、必ずやたくさんの子供達の心に残り続けると私は思います。

 

住所 / 地図

〒510-0075 三重県四日市市安島1丁目3−16

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