はじめての新居町駅、そして新居関跡へ──江戸の空気が残る場所を訪ねて ( 静岡県湖西市の旅 : 2025-04-19 )
新居関所/新居関所史料館(静岡県湖西市)
歴史への入口──はじめての新居町駅
静岡県湖西市の新居町駅に降り立ったのは、今回が初めて。
これまでお隣の弁天島駅には何度か訪れていたものの、なぜかこの駅には縁がなかったのです。
降りてみると、駅周辺はどこか懐かしさを感じさせる町並み。
旅の始まりにふさわしい、ゆったりとした空気が流れていました。
今回の旅の目的地は、駅から徒歩10分ほどの場所にある新居関跡(あらいせきあと)。
この関所跡、実はただの史跡ではなく、日本で唯一現存する江戸時代の関所建物なのです。しかも、国の特別史跡にも指定されているというから驚きです。
これまで訪れた高山や木曽福島にも関所の建物はありましたが、それらはいずれも復元施設。新居関跡が「唯一現存」とされる理由が、少しずつわかってきました。
現地に行って確かめたい──そんな好奇心に背中を押され、歩を進めました。
関所の重みを肌で感じる──新居関跡を歩く
駅から南へ、旧東海道に沿って西へ10分。
新居関跡に到着しました。
この場所は別名**今切関所(いまぎれせきしょ)**とも呼ばれ、慶長5年(1600年)に徳川家康の命で設置されました。
江戸幕府は全国に53の関所を設け、「入り鉄砲に出女」の取り締まりを徹底しましたが、ここ新居関所は特に重要な拠点とされ、約100年間、幕府の直轄で厳重な警備体制が敷かれていたそうです。
特徴的なのは、他の関所では江戸から出る女性(出女)の取り締まりが主だったのに対し、ここでは江戸へ向かう女性(入り女)にも手形の提示が求められたという点。不備があれば、通行は許されませんでした。
現在残る建物「面番所(めんばんしょ)」は、安政5年(1858年)に再建されたもの。
これ以前に自然災害で2度倒壊や移転を経ており、いわば“3代目”の建物ですが、それが今も現存しているというのは驚くべきことです。
中に入ると、かつてここで働いていた関所役人や定番人(じょうばんにん)たちのマネキンが配され、当時の空気がリアルに再現されています。
木の床を歩くたびに、パキパキと音が響き、まるで自分が江戸時代の旅人になったような錯覚に。
見学中、思わず背筋が伸びるような緊張感が漂い、これはただの観光スポットではない、と実感しました。
江戸のルールと人の営みに触れる──新居関所史料館
面番所のすぐ隣にあるのが新居関所史料館です。
ここでは関所にまつわる資料のほか、街道や交通の歴史に関する常設展示や企画展が充実。
年に6〜7回はテーマ展示も開催されているそうで、地域の歴史文化に深く触れることができます。
特に心に残ったのは、関所を無断で通ろうとし、処罰された人々の事例の展示です。
たとえば通行手形に不備があった女性、偽造手形で通ろうとした者、さらには許可なく武器を持ち歩いていた旅人。
展示資料からは、当時の規律の厳しさと、それでもなお旅を続けようとした人間模様が生々しく伝わってきました。
また、湖西市では現在も関跡の復元整備事業が進行中。
すでに「今切渡船場の石垣・護岸」「土塁柵」「高札場」「女改之長屋」などが復元されており、さらに今後「船会所」や「土蔵」などの整備も計画されているそうです。単なる保存にとどまらず、地域全体で江戸の景観を未来へと継承しようとしている姿勢に、心から敬意を感じました。
歴史に触れる旅は数あれど、160年以上前の建物が今も現存し、中を歩くことができるという体験は、そうそう味わえるものではありません。教科書では得られない、“肌で感じる歴史”が、ここにはありました。
地図・アクセス
〒431-0302 静岡県湖西市新居町新居1227−5
https://www.city.kosai.shizuoka.jp/kanko_bunka_sports/kankospot/9675.html