テレピアホールで出会った「伊藤潤二展 誘惑」──恐ろしくも、美しい世界へ ( 名古屋市東区の旅 : 2025-10-26 )
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テレピアホール「伊藤潤二展 誘惑 JUNJI ITO EXHIBITION ENCHANTMENT」 (名古屋市東区)
名古屋・東区のテレピアホールで開催中の「伊藤潤二展 誘惑 JUNJI ITO EXHIBITION ENCHANTMENT」を観に行ってきました。

実は私、普段ほとんど漫画を読まないので、伊藤潤二さんという方の名前も、この展示の看板で初めて知りました。
ビルの壁面に映し出された宣伝映像に、ふと足を止めたのがきっかけでした。

黒髪の美女がこちらを振り向き、その腕の中には妖しい姿をした何かを抱えている──その映像に、なぜか心を奪われてしまいました。
「これはどんな世界なんだろう」と、好奇心のままに会場へ向かいました。
会場に漂う独特の静けさ
テレピアホールの入口には、黒を基調にした大きなポスターが掲げられていて、そこからすでに“異世界”の空気を感じます。
周りには熱心なファンの方々が多く、スマートフォンで撮影したり、グッズを手にしたりと、期待の高まりが伝わってきました。
一方で、私はまったくの初心者。
「ホラー漫画」と聞くと、少し怖いイメージを持っていたのですが、会場の雰囲気は静かで落ち着いていて、怖さよりも「美術展」に近い印象を受けました。
伊藤潤二さんは、岐阜県中津川市のご出身だそうです。
東海地方の方だと知り、少し親近感を覚えました。
原画から伝わる“静かな迫力”
展示室に入ると、まず目に入ったのは代表作『富江』の原画です。
黒髪の美しい少女・富江が、人々を惹きつけ、そして破滅へと導いていく物語だそうです。
原画を間近で見ると、細い髪の一本一本、瞳の光、唇の陰影まで丁寧に描かれていて、まるで呼吸しているように感じました。
最初は「きれいだな」と思って眺めていたのですが、次第に背筋がぞくりとしました。
笑顔なのに、どこか怖い。
優しそうなのに、深い闇を秘めている。
そんな相反する感情がひとつの絵の中に同居しているのです。
続く展示では、『うずまき』や『首吊り気球』など、聞くだけで不穏なタイトルの作品も並んでいました。
けれど、どの原画も怖いだけではなく、構図が緻密で、線がとても美しい。
まるで恐怖そのものを“芸術”として描いているようでした。
創作の裏側にも感動
後半のエリアでは、伊藤潤二さんの仕事道具やラフスケッチ、創作メモなどが展示されていました。
その几帳面さと緻密さに感心しました。

ペンの線の一本一本まで正確で、原稿用紙の上には余白すら計算されたように整っています。
「怖い」よりも先に、「美しい」という言葉が出てきてしまうほどでした。
また、映像コーナーではご本人のインタビューも流れており、「怖いものの中には美しさがあると思うんです」という言葉が印象的でした。
恐怖を描くことが目的ではなく、恐怖の中にある“人間の美しさや弱さ”を描きたい──そんな思いが伝わってきました。
映像で拝見したご本人は、どこにでもいそうな穏やかな雰囲気の方。
その見た目からは想像できないほど、繊細で不気味、そして美しい世界を描き出していることに驚きました。
グッズコーナーも見どころ
最後に立ち寄った物販コーナーも充実していました。

原画をもとにしたポストカードやTシャツ、クリアファイルなど、思わず手に取りたくなるものばかりです。
私は記念にポスターを一枚購入しました。
黒い背景に浮かび上がる富江の微笑みが印象的で、飾るのは少し勇気がいりますが、思い出として持ち帰りました。
恐怖と美が共存する場所
会場を出て外の光を浴びたとき、なんだか現実が少し遠く感じました。
ほんの30分ほどだったのに、まるで長い夢から覚めたような気分です。
伊藤潤二さんという名前を知らずに訪れた今回の展示でしたが、作品の力強さと緻密さ、そして人間の感情を描く深さに、強く惹かれました。
恐怖を描くことは、人の心を掘り下げることでもあるのだと感じました。
怖いのに、なぜか美しい──そんな不思議な魅力に包まれた展示でした。
地図
〒461-0005 愛知県名古屋市東区東桜1丁目14−25 テレピアビル 2F




