京都国立博物館 平成知新館 「特別展 日本、美のるつぼ―異文化交流の軌跡―」 ( 京都府京都市の旅 : 2025-05-23 )
京都国立博物館(京都府京都市)
前回のブログでご紹介した三十三間堂を後にし、そのすぐ向かい側に足を向けました。
道路を挟んだ反対側にあるのが、京都国立博物館。ここに来るのは今回が初めてです。しかも、ちょうど「大阪・関西万博開催記念 特別展 日本、美のるつぼ―異文化交流の軌跡―」が開催されており、日本美術の名品が一堂に会しているとのこと。期待は高まるばかりです。
初めての京都国立博物館
京都国立博物館といえば、明治期の洋風建築「明治古都館」がシンボルとして有名です。
重要文化財にも指定され、その重厚な赤レンガの外観は、京都の街並みにあってひときわ目を引きます。しかし残念ながら、現在は工事中で館内には入れません。そのため、展示は平成26年(2014年)に開館した「平成知新館」で行われていました。
平成知新館は、国際的にも著名な建築家・谷口吉生氏による設計。彼はニューヨーク近代美術館(MoMA)の新館設計などで知られ、シンプルでありながらも空間そのものが作品を引き立てるデザインに定評があります。建物は免震構造を備え、文化財保護のための温湿度管理や高性能LED照明など、最新の技術が詰まっています。それでいて、柔らかな自然光を取り込む設計によって、作品が持つ質感や色彩が一層引き立つよう工夫されていました。
入口から館内に足を踏み入れた瞬間、落ち着いた照明と洗練された空間に包まれ、まるで別世界に迷い込んだかのような感覚になります。展示室は回廊のようにゆるやかにつながっており、来館者の流れが自然と作品へと誘われるように設計されているのも印象的でした。
国宝 風神雷神図屏風との再会
展示の中で、私が最も楽しみにしていたのが俵屋宗達の《風神雷神図屏風》です。江戸時代初期の代表作であり、日本美術史を語るうえで欠かせない一枚。屏風いっぱいに描かれた風神と雷神は、躍動感と迫力に満ち、金地の背景が二神の存在感を際立たせます。
風神のたなびく布、雷神が抱える太鼓、そして背景の金箔が放つ輝きは、異文化との交流の中で磨かれた日本独自の美意識を象徴しているようでした。思わず足を止め、角度を変えて何度も見入ってしまいます。
初めて出会った宝誌和尚立像
数多くの展示品の中で、私に新しい発見をくれたのが《宝誌和尚立像》でした。宝誌和尚は十一面観音の化身とされる中国の僧で、平安時代の日本ではその霊験譚が広く知られていました。この像は、中国の僧像様式を踏まえながらも、日本的な宗教観を反映させた独特の造形を持っています。
特に目を引いたのは、その異様ともいえる造形。和尚の顔の下からもうひとつの顔が現れる姿は、見る者に強烈な印象を与えます。単なる奇抜さではなく、深い宗教的象徴が込められており、「仏の化身」という概念を視覚的に表現した傑作だと感じました。
最後に圧倒された羅怙羅尊者像
展示を巡る中で最も衝撃を受けたのは、最後の展示室に現れた范道生作《羅怙羅尊者像》(江戸時代・寛文4年、京都・萬福寺所蔵)です。これは今回の特別展で唯一撮影可能な作品でした。羅怙羅尊者は釈迦の子とされる人物で、この像では「自分の中に仏がいる」として胸を開き、その内側から仏が現れる姿が彫られています。
胸を大きく開くポーズ、その内部に佇む仏像、その一切を覆う木彫の精緻さと塗彩の美しさに、ただただ圧倒されました。中国出身の仏師による写実的な造形は、肉体の張りや表情の機微までをも表現し、見る者の心を強く揺さぶります。この像の前に立つと、“体内からほとばしるような信仰心”という言葉が自然と浮かびました。まさに展示の掉尾を飾るにふさわしい存在感です。
館外の景色と明治古都館
展示を見終えた後は、館外に出て庭園を散策しました。
整えられた芝生と石畳の道を歩き、表門から振り返ると、噴水越しに見える明治古都館の姿がありました。赤レンガの外壁と白い装飾が夕方の光を受けて輝き、重厚でありながらも優雅な雰囲気を漂わせています。
庭園では修学旅行生たちがグループごとに写真を撮ったり、噴水の前で笑い合ったりしていました。その光景を眺めながら、訪れる人々がそれぞれの方法で京都の文化に触れていることを感じ、こちらまで心が温かくなります。
今回は平成知新館での特別展を堪能しましたが、工事中の明治古都館にもいつか足を踏み入れてみたいと思います。創建から百年以上の歴史を持つその建物が、どのような空間を秘めているのか、想像するだけで胸が躍ります。
こうして三十三間堂と京都国立博物館を巡った一日は、日本美術と信仰の深さを改めて感じる時間となりました。京都観光はまだ続きますが、その模様は次回のブログでお伝えします。
住所 / 地図
〒605-0931 京都府京都市東山区茶屋町527