即成院と戒光寺を訪ねて ― 泉涌寺の山懐に眠る「極楽の調べ」と「身代わりの丈六」 (京都府京都市の旅 : 2025-12-19)
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即成院と戒光寺(京都府京都市)
東福寺の広大な境内をあとにし、さらに北へと足を伸ばします。目指すは、皇室とのゆかりが深く「御寺(みてら)」の名で親しまれる泉涌寺(せんにゅうじ)の山内です。
道中、色鮮やかな手水舎や花手水で知られる勝林寺の前を通り過ぎ、道は次第に緩やかな上り坂へと変わっていきます。
東山の山間に分け入るこのエリアは、東福寺の開放感とはまた異なり、木々に囲まれた静謐な空気が漂っています。泉涌寺へと続く参道の両脇には、歴史ある塔頭(たっちゅう)寺院が点在しており、一歩足を踏み入れるごとに、さらに深い祈りの世界へと誘われるようです。
即成院:願いを射抜く「仏像のオーケストラ」
まず立ち寄ったのは、泉涌寺の塔頭の一つである即成院(そくじょういん)です。 この寺名は「願いが即座に成就する」という、参拝者にとってこれ以上ないほど心強い意味を持っています。古くから「願掛けの寺」として篤い信仰を集めてきた場所です。
圧巻の二十五菩薩来迎像
本堂の有料エリアへと進むと、そこには息を呑むような光景が待っていました。
中央に鎮座する巨大な阿弥陀如来像と、それを取り囲むように配置された二十五菩薩像(重要文化財)。
これは、阿弥陀如来が極楽浄土から亡くなった人を迎えに来る「来迎(らいごう)」の瞬間を立体的に表現したものです。
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多様な個性:25体の菩薩たちは、それぞれが異なる楽器を手にしています。笛を吹き、鼓を打ち、笙(しょう)を奏でる。
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仏のオーケストラ:その躍動感あふれる姿は、まさに「仏像のオーケストラ」。
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慈悲の微笑み:一体一体の表情も実に豊かで、優しく微笑みかけるようなその顔立ちを見ていると、この世の悩みもふっと消えていくような、華やかで穏やかな感動に包まれました。
これほど大規模な来迎像を、これほど間近で拝観できる場所は他に類を見ません。平安時代の浄土信仰が、現代の私たちに語りかけてくるような深い精神性を感じることができました。
英雄・那須与一の終焉の地
即成院は、源平合戦の英雄である那須与一(なすのよいち)ゆかりの地としても知られています。 元暦2年(1185年)、屋島の戦いにおいて、揺れる舟の上の扇の的を見事に射抜いた与一。彼は戦の前にこの即成院で病気平癒を祈願し、その加護によって回復したという伝説が残っています。
戦いの後、与一は出家してこの地で生涯を終えたといわれ、境内には彼のお墓とされる立派な石塔が安置されています。扇の的を射抜いたことから「的を外さない=願いを外さない」として、勝負事や心願成就を願う人々が今も絶えません。歴史上の英雄が、静かにこの山間に眠っている事実に、深い感慨を覚えました。
戒光寺:身代わりに立つ、巨大な釈迦如来
即成院をあとにし、さらに山間の道を奥へと進むと、次に現れるのが戒光寺(かいこうじ)です。
建保4年(1216年)に創建された真言宗泉涌寺派の寺院であり、こちらも泉涌寺の塔頭として重要な役割を担ってきました。
5.4メートルの圧倒的な迫力
本堂の扉を開けた瞬間、その視線の先にある存在に圧倒されます。 丈六釈迦如来立像(じょうろくしゃかにょらいりゅうぞう・重要文化財)。 高さ約5.4メートル(一丈六尺)。見上げるほどに巨大なこの木造仏は、鎌倉時代の様式を色濃く残しています。
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強い意志を感じる表情:一般的な釈迦像に多い「柔和な微笑み」とは少し異なり、このお釈迦様はどこか厳格で、力強い意思を感じさせる表情をしています。
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導きの力:迷える人々を力強く救い上げようとする、その巨大な手と凛々しい顔立ち。足元から仰ぎ見ると、自分の存在がとても小さく感じられると同時に、大きな存在に守られているような安心感も得られます。
「身代わり釈迦」の伝説
この巨大な仏像は、古くから「身代わり釈迦」と呼ばれ、深く信仰されています。 伝説によれば、鎌倉時代、後嵯峨天皇が重い病に伏した際、この釈迦如来が天皇の苦しみを受け、首のあたりから血を流して“身代わり”となったことで、天皇の病が完治したといわれています。
今も仏像の首のあたりには、血が流れた跡とされる模様が見て取れます。その壮絶な伝説が、この仏像が放つ圧倒的な「凄み」と相まって、病気平癒や厄除けを願う参拝者の心に強く響くのでしょう。
泉涌寺山内の奥行きを歩く
即成院と戒光寺。 同じ泉涌寺の塔頭でありながら、一方は「華やかな極楽のオーケストラ」、もう一方は「巨大で力強い身代わりの仏」と、それぞれに全く異なる個性を放っています。
東福寺から始まった今回の散策も、いよいよ東山の深い山中へと入り込み、京都という街が持つ信仰の層の厚さを改めて実感しています。観光客の喧騒がさらに遠のき、鳥の声と風の音だけが聞こえるこの山間の道は、歴史を肌で感じるには最高のルートです。
散策はここで終わりではありません。 さらに山間の奥へ、この「御寺」の核心部を目指して歩みを進めます。
住所 / 地図
〒605-0977 京都府京都市東山区泉涌寺山内町28





























