大府駅から歩いて ― 大倉公園をめぐる歴史散策(愛知県大府市の旅:2025-06-21)

 

大倉公園(愛知県大府市)

愛知県大府市には、これまで何度も足を運んできました。けれども私の訪問は、決まって「あいち健康の森公園」と「JAあぐりタウン」、あるいは武豊線に乗り換えて「イオンスタイル東浦」へ向かうことばかり。大府駅周辺の街をしっかり歩いたことは、これまで一度もありませんでした。
大府といえば名古屋から電車で20分ほど、暮らしやすさで人気のエリア。せっかく何度も訪れているのに、駅のまわりを知らずに通り過ぎるだけではもったいない――そんな思いから、今回は大府駅の北東エリアをゆっくり散策してみることにしました。目的地は「大倉公園」です。

大府駅から北東へ

JR大府駅を降り、駅前のメイン通りを北東に向かって歩き出します。

大府駅東口のあたりは、飲食店や小さな商店が立ち並び、日常のにぎわいが感じられるエリア。通りをまっすぐ進むにつれて徐々に住宅街へと変わり、静けさが広がっていきます。


やがて、白壁に瓦屋根をいただく立派な建物が視界に入ってきました。「大府市歴史民俗資料館」です。

その奥に、木々に囲まれるように広がるのが、今回の目的地「大倉公園」。思っていた以上に奥ゆかしい雰囲気で迎えてくれました。

大倉公園の成り立ち

大倉公園は、かつて大倉和親(おおくら・かずちか)の別荘地として整備されたものを基礎にしています。大倉和親といえば、明治・大正期に活躍した実業家・政治家で、大府にゆかりを持ち、地元の発展にも尽力した人物です。その別荘の一部が保存され、公園として開放されているのです。
現在は市民の憩いの場として親しまれており、春には桜が咲き誇り、秋には紅葉が鮮やかに色づきます。歴史を背景にした風格と、自然の豊かさが同居しているのがこの公園の大きな魅力だと感じました。

茅葺門との出会い

園内に入ってまず目を引いたのが「大倉公園茅葺門」です。

藁で葺かれた屋根がどっしりと構え、両脇の土塀とともに昔ながらの武家屋敷を思わせる姿。近代的な住宅街の中に突如あらわれるため、その存在感はいっそう際立っています。


茅葺屋根というのは今や貴重で、維持管理も大変なもの。それをこうして保存し、訪れる人に歴史を伝えていることに大府市の文化への意識を感じました。門をくぐると、まるで別世界へ足を踏み入れたような感覚。街の喧騒から切り離され、時代を越えた静けさに包まれます。

休憩棟 ― 旧大倉和親別荘離れ

さらに奥へ進むと「大倉公園休憩棟」にたどり着きます。

ここは大倉和親の別荘の離れを移築保存したもの。和風建築のしっとりとした風情が漂い、縁側に腰かけると、庭の緑と静けさが心に沁みてきます。
建物は資料館の展示と違い、生活の気配を感じさせる場所。大倉和親がこの離れでどんな思索を巡らせていたのか、想像するだけで時間の流れが緩やかになります。今では市民や観光客が休憩に利用できる場として開放されており、歴史遺産でありながら日常に溶け込んでいる点も魅力的でした。

竹林の小径を歩く

休憩棟を抜けてさらに奥に進むと、竹林が広がっています。

青々とした竹が天へと伸び、風に揺れる音がサラサラと耳に届きます。木漏れ日が竹の間から差し込み、足元にはまだら模様の光が落ちていました。
「大倉竹林の小径」と名づけられたこのエリアは、散策する人々にとって心を落ち着ける場所。竹林を歩くと、なぜか日常の雑念が薄れていき、心が浄化されるような気持ちになります。都会の近郊にありながら、これほど静謐な空間に出会えるとは思いませんでした。

遠野のカッパと池

竹林を抜けると、小さな池とともに不思議な存在が目に入ります。

池の畔に立っているのは「遠野のカッパ」の像。東北・岩手県遠野市と大府市が交流を持っている縁で設置されたものだそうです。


河童伝説で有名な遠野と、愛知の大府がこうして結びついているのは面白い発見でした。水辺に佇むカッパの姿はユーモラスで、子どもたちには人気のスポット。歴史ある公園に突如現れるユニークな存在として、訪問の記憶に強く残りました。

大倉公園を訪れて印象に残ったのは、ただ歴史を保存しているだけでなく、そこに暮らす人々の憩いの場として生き続けていることです。大倉和親の別荘地としての由緒を今に伝えながら、茅葺門や休憩棟、竹林の小径、遠野のカッパといった多彩な魅力が散りばめられています。
これまで大府市を訪れながら、駅の北東にこんな公園があることを知らなかったのが惜しいほど。名古屋近郊でありながら、歴史と自然をじっくり味わえる大倉公園は、これから大府を訪れるたびに立ち寄りたい場所のひとつになりました。

地図

5丁目-74 桃山町 大府市 愛知県 474-0026

 

 

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