安土城跡【後編】山上に広がる天主の夢、そして摠見寺が遺したもの ( 滋賀県近江八幡市の旅 : 2025-09-27 )
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安土城跡・摠見寺(滋賀県近江八幡市)
信長公廟所で静かに手を合わせ、深く一礼。
ここまで登ってきた石段の重みと、胸に溜まっていた熱を、そっと吐き出すような時間でした。
そして、いよいよこの旅の核心へ向かいます。安土城天主跡へ。
天主跡へ――天下布武の象徴があった場所
信長公廟所を後にし、最後の階段へ。

杉木立に包まれた広大な本丸跡を横目に、息を整えながら一段一段踏みしめていきます。
視界が少しずつ開け、木々の隙間から光が差し込む。その先に現れたのが、かつて信長が天下布武のために築かせた、城の中心――天主のあった場所でした。
安土城の天主は、当時としては極めて異例の構造をもっていたと伝えられています。
五重六階・地下一階。最上階は金色に輝き、その下の階は朱塗りの八角堂。
宗教的意匠と権威の象徴を融合させた、まさに信長らしい独創性に満ちた建築です。
しかし、その姿を正確に伝える図面や絵図は、いまだ見つかっていません。
残されているのは、記録と想像、そしてわずかな遺構だけ。
今、目の前にあるのは、地下部分を囲む石垣と礎石のみです。
それでも、天主台の周囲に立つと、自然と背筋が伸びました。

ここが、時代を変えようとした男の視点だった場所。
周囲の石垣に登り、遠くを見渡すと、琵琶湖が静かに横たわっていました。
もし天主最上階に立てたなら、どれほどの眺めだったのでしょうか。
湖面のきらめき、城下町の営み、そして天下を見据える視線。
想像するだけで、胸が高鳴ります。
巨大な城の「体感」
安土城跡の入口から、ここ天主跡まで。
距離以上に感じるのは、その厳しさです。
急勾配の石段、不規則な足場、容赦なく照りつける日差し。
改めて、安土城という城が、いかに巨大な存在だったかを体で理解しました。
守るため、見せるため、そして圧倒するための城。
山全体を使って築かれたその構造は、平面図では決して伝わらない迫力を持っています。
帰路は別の道へ――摠見寺跡へ向かう
天主跡を後にし、来た道を戻るのかと思いきや、下山は別ルート。
ここからは、摠見寺跡を巡る道へと進みます。
摠見寺は、織田信長が安土城築城とほぼ同時期に整備した大寺院です。
単なる城下の寺ではなく、信長の思想と権威を体現する宗教施設として位置づけられていました。
創建は天正7年(1579)。
臨済宗妙心寺派に属し、安土城の精神的中核を担う存在として、山腹から山上にかけて壮大な伽藍が広がっていたと伝えられています。
政治・軍事・宗教・文化。
それらをひとつの空間に集約しようとした信長の構想は、摠見寺の立地と規模からも明らかです。
しかし、本能寺の変後、安土城と運命を共にするように、摠見寺も主要伽藍を失います。
江戸時代には再建と衰退を繰り返しましたが、創建当初の姿は、次第に歴史の中へと消えていきました。
静かに語る礎石と、三重塔
現在の摠見寺跡には、建物そのものは残っていません。
しかし、礎石群や段状の平坦地、石垣の痕跡が、ここに確かに伽藍が存在したことを物語っています。
その隣で、ひときわ目を引くのが三重塔です。

国の重要文化財に指定されており、室町時代建立の貴重な建築。
信長が安土城築城に際し、近江国内の寺院から移築させたものと伝えられています。
現在は宗教施設として日常的に使われているわけではありませんが、文化財として大切に守られ、摠見寺の象徴として静かに佇んでいます。
そして、この三重塔付近からの眺め。
眼下には、大きく広がる西の湖。
この日見た景色の中で、間違いなく一番の絶景でした。
湖と空と山々たち。
ここに立ち、信長は何を思ったのか。
訪れる機会があれば、ぜひ立ち止まってほしい場所です。
二王門をくぐり、下山へ
三重塔を後にし、さらに山道を下ると、摠見寺の二王門に到着します。

この門は、安土城竣工の100年以上前から存在する楼門で、三重塔と同じく国の重要文化財。
門の両脇に立つ金剛力士像は迫力に満ち、長い年月、この地を見守ってきた存在であることが伝わってきます。
そこからさらに10分ほど、険しい道を進むと、安土城跡の入口付近へ。
登り始めてから、ほぼ1時間。
気づけば、足にはしっかりと疲労が蓄積していました。
現存する摠見寺で、旅を締めくくる
最後に訪れたのは、現在も存続する摠見寺。

創建当初の中心伽藍とは場所も規模も異なりますが、信長ゆかりの寺として、確かな存在感を放っています。
特別拝観で堂内へ。
そこには、代々受け継がれてきた信長ゆかりの位牌や仏具が安置されていました。
ここが史跡であると同時に、今も信仰の場であることを、静かに教えてくれます。
歴史を感じる和室でいただく抹茶と和菓子。
登城後の体に染みわたる美味しさでした。
小学生の頃、歴史に惹かれ、読書やゲームを通じて戦国時代に夢中になった日々。
その延長線上にあった「安土城に行く」という願い。
それが、ようやく叶った瞬間でした。
旅は、まだ続く
この後は、滋賀県立安土城考古博物館、そして「安土城天主 信長の館」へ向かいます。
信長が築こうとした城の全体像を、別の角度から知ることができる場所。
その記録は、次のブログで。
それにしても……
山道、歩きすぎました。
正直、足が、痛い。
それでも、不思議と後悔はありません。
この疲労こそが、安土城という城を歩いた証なのだと思いながら、静かに山を後にしました。
地図
〒521-1341 滋賀県近江八幡市安土町上豊浦













































