彦根駅から歩く、歴史の息吹──彦根城博物館で出会う往時の気配 ( 滋賀県彦根市の旅 : 2025-04-28 )
彦根駅 / 彦根城博物館(滋賀県彦根市)
名古屋駅から特急「しらさぎ3号」に乗って、米原駅を経由して彦根駅へ。
彦根を訪れるのは、2015年9月以来、じつに約10年ぶりのことになります。
かつて関西で仕事をしていた頃には何度か足を運びましたが、観光で訪れるのは今回で3度目。
初めて訪れたのは25年前。時が経ったからこそ、歩くたびに新鮮な風景として記憶に刻まれていきます。
曇天が広がる空模様のもと、今にも雨が降り出しそうな空気を感じながらの散策となりましたが、幸いにも本降りとなることはなく、帰路に就く30分前までなんとか持ちこたえてくれました。今回は、彦根駅から彦根城の表門に向かい、彦根城博物館をじっくりと見学。その様子をお伝えします。なお、天守については次回のブログにてご紹介します。
駅からお城へ──歩くほどに深まる期待
旅は彦根駅の西口から始まります。駅前の景観はどこか愛知県の犬山駅を思わせる佇まいで、落ち着いた空気が漂います。
駅前ロータリーを右手沿いに進み、およそ10分ほど歩くと、滋賀縣護國神社に到着。
境内では牡丹の花が見事に咲き誇り、思わず足を止めて見入ってしまいます。旅の無事を祈願し、さらに足を進めました。
道中には「彦根市開国記念館」もありますが、こちらは以前の訪問時に立ち寄ったため今回は通過。
やがて視界に広がるお堀には、遊覧船が静かに浮かび、ゆったりとした時間が流れているよう。
お堀沿いを南へ進むと、やがて表門橋に到着。
10年前に訪れた際は、天守への入場待ちが90分もあり断念しましたが、この日は人も少なめで、気持ちにもゆとりが生まれます。
表門橋を渡ってすぐ右手に見えてくるのが、今回の目的地──彦根城博物館です。
歴史を映す器──復元された御殿に宿る時間
彦根城博物館は、昭和62年(1987年)、彦根市の市制50周年を記念して建てられました。場所は、かつての彦根藩政庁および藩主の居館であった「表御殿」の跡地。井伊家伝来の美術工芸品や古文書など、約4万5千点にも及ぶ資料を収蔵し、現在では収蔵数9万件を超える、まさに彦根の歴史の中核を担う存在です。
館内に足を踏み入れると、和の設えが美しい広いロビーが出迎えてくれます。吹き抜けの中央には能舞台が据えられ、その前には小さなミュージアムショップと、お茶席のようなスペースも。展示室では、常設展示とともに、季節ごとの特別展も催されています。
この博物館の目玉のひとつが、江戸時代から現存する能舞台。
寛政12年(1800年)に建てられたもので、明治時代に移築されていたものが、博物館の建設にあわせて元の場所へ戻されました。
屋根の構造や柱の配置、鏡板の意匠に至るまで、格式高い能舞台としての姿が今も残ります。
表御殿に息づく藩政の記憶
展示の中でも、もっとも心打たれたのは復元された「表御殿」でした。
藩士が政務を行い、藩主が生活を営んでいたこの建物は、彦根藩政の中心でしたが、明治初期に取り壊され、長らくその跡地はグラウンドとして使われていました。
昭和50年代に入ると、表御殿の復元と博物館の建設構想が本格化。発掘調査と古絵図の研究に基づき、展示施設としての機能を加えつつ、忠実な復元が進められました。
耐火性が求められる展示室は鉄筋コンクリート造としつつ、藩主の私的空間である「奥向き」は、伝統的な木造建築で再現。
さらに、奥向きに面した庭園も発掘調査に基づき、灯籠や手水鉢までも復元されています。
板敷きの回廊を歩いていくと、ふわりと空気が変わるような広間が現れます。畳敷きの部屋からは、美しい新緑の庭園が広がり、障子越しに柔らかな光が差し込みます。かつては限られた人物しか足を踏み入れられなかったこの空間を、現代の私たちが穏やかな気持ちで眺められるというのは、歴史への贅沢な触れ方ではないでしょうか。
彦根城博物館をめぐる今回の旅では、単に展示を見るという枠を超えて、江戸時代の空間に身を置き、歴史に包まれるような感覚を得ることができました。展示されている品々はもちろんのこと、空間そのものが語るものの重み──それがこの博物館の最大の魅力であるように思います。
次回は、いよいよ彦根城の天守をめぐる旅。かつて90分待ちに断念したその場所に、ようやく足を運ぶときがやってきました。
地図
〒522-0061 滋賀県彦根市金亀町1−1