心を奪われた庭園──玄宮園で過ごした静かな午後 ( 滋賀県彦根市の旅 : 2025-04-28 )

 

玄宮園(滋賀県彦根市)

思っていた以上の感動が待っていました

彦根城の見学を終えたあと、次に向かったのが北側に位置する「玄宮園」でした。

正直なところ、庭園と聞いてもあまり強い期待を持っていたわけではありませんでした。お城のついでに立ち寄ってみようか、くらいの気持ちだったのです。ところが、園内に足を踏み入れた瞬間、その景色に言葉を失ってしまいました。

広々とした池が目の前に広がり、大小の中島には趣のある橋がかけられていました。

池の向こうには茶席・鳳翔台、さらにその奥に彦根城の天守が見え、すべてがひとつの風景画のように構成されていたのです。

玄宮園は、旧彦根藩主・井伊家の下屋敷である槻御殿(現在の楽々園)に付随する後園として、江戸時代前期に作庭された池泉回遊式庭園とのこと。中央の池を取り囲むように歩ける造りになっていて、ゆったりと園内を巡ることができました。

なかでも印象に残っているのは、どこから眺めても絵になる美しさでした。一歩進んでは立ち止まり、また少し歩いては振り返り……その繰り返しで、なかなか前へ進めなかったほどです。私の人生の中で、これほど心を揺さぶられた庭園はなかったと断言できるほど、素晴らしい景観でした。

 

鳳翔台でいただいた、忘れられない一服

園内を巡っている途中、池のほとりに建つ数寄屋造りの茶席「鳳翔台」に立ち寄りました。ちょうど空いていたこともあり、一服いただくことにしました。

ここで出されたのは、抹茶と和菓子のセット。和菓子は「埋も木(うもれぎ)」という銘菓で、彦根藩主・井伊家の御用達として知られ、かつては天皇への献上品でもあったそうです。

その「埋も木」は、しっとりとした食感と上品な甘みが印象的で、抹茶との相性もぴったりでした。ひと口ごとに、心が静かにほどけていくような、そんな時間でした。

そして、なにより贅沢だったのが、その景色。目の前には静かな池が広がり、ゆったりと風が草木を揺れる。そんな風景の中で味わうお抹茶と和菓子は、味だけでなく、五感すべてに沁みわたるようなひとときでした。

今でもその時の空気や光、水面のきらめきまでも、記憶の中にくっきりと残っています。

 

歴史の厚みにふれる庭園

玄宮園の歴史を調べてみると、その背景にはさまざまな物語がありました。

もともとは「槻之御庭(けやきのおにわ)」と呼ばれ、延宝5年(1677年)に4代藩主・井伊直興によって造営が始まり、同7年に完成したと伝えられています。昭和26年には国の名勝にも指定され、現在では御殿部分を「楽々園」、庭園部分を「玄宮園」と呼び分けています。

園内には、「鳳翔台」や「八景亭」「魚躍沼」「鶴鳴渚」など、美しい名前を持つ景勝地が点在しており、かつては「玄宮園十勝」と呼ばれていたことが、江戸時代の「玄宮園図」によってわかっています。

池の水は、湧水豊かな外堀からサイフォンの原理を使って引き入れられ、小島の岩間から滝のように流れ落ちていたそうです。さらに、園内には船小屋も設けられ、風流な舟遊びも楽しまれていたとのこと。

北側の水門からは、湖岸にある弁財天堂や菩提寺の清凉寺・龍潭寺への参詣、さらには松原にあったもう一つの下屋敷「御浜御殿」へのお成りの際にも、御座船が使われていたというから、当時の華やかな文化が感じられました。

こうして歴史を知ることで、庭園の一つ一つの景色にも、より深みが加わって見えてくるようでした。

 

心に残った風景、また訪れたい場所

本来なら、このあとは夢京橋キャッスルロードを散策する予定でした。けれど、玄宮園での時間があまりにも満ち足りていて、その余韻を崩したくなかったこともあり、予定を変更して早めに帰ることにしました。

今回の旅では、玄宮園という場所が私の中に深く刻まれました。歩いても歩いても飽きることのない景色、どこから見ても美しい構図、そして何より心を静かに満たしてくれる空気感──まさに、理想の庭園との出会いでした。

季節を変えて、また訪れたいと思っています。紅葉の時期にはどんな彩りを見せてくれるのか、雪に覆われた冬にはどんな静けさが広がるのか……。次の旅が、いまからとても楽しみです。

玄宮園で過ごした時間は、私にとって「旅先で偶然出会った絶景」ではなく、「また戻りたくなる特別な場所」になりました。ほんの数時間の滞在でしたが、その美しさと静けさは、長く心に残り続けると思います。

 

以下、夢京橋キャッスルロード周辺の様子

 

地図

〒522-0061 滋賀県彦根市金亀町9−3

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