心を整える旅 〜哲学たいけん村 無我苑と応仁寺を訪ねて〜 ( 愛知県碧南市の旅 : 2025-03-01 )

 

哲学たいけん村 無我苑 / 応仁寺

前回訪れた「油ヶ淵水辺公園(水生花園)」と「花しょうぶ園」。その余韻がまだ残る中、今回はそのすぐ近くにある「応仁寺」と、さらにその奥にある「哲学たいけん村 無我苑」へと足を延ばしてみました。

応仁寺

「花しょうぶ園」のすぐ向かい、道路を挟んだ先にひっそりと佇む「応仁寺」。一見するとこぢんまりとしたお寺ですが、なんとこの場所は、あの蓮如上人が1468年(応仁2年)に布教の拠点とした、由緒ある浄土真宗のお寺なのだとか。その後、住職も檀家も持たない「無住無檀」のかたちで、地元の人々の手によって大切に守り続けられてきたそうです。

そんな応仁寺で特に目を引くのが、通称「黒ぼとけさん」。これがまた、ただならぬ存在感。正式には「五劫思惟阿弥陀仏像」と呼ばれ、かつて阿弥陀仏が法蔵菩薩だった時代に、五劫という気の遠くなるほどの長い時間、ただひたすら衆生を救うことを思い続けた姿を表現しているそうです。

応仁寺の黒ぼとけさんは、その思惟の年月を体現するかのように、極限まで痩せ細った異形の姿。初めて目にしたときは少し息を呑みました。まるで即身仏のような風貌で、そのインパクトは絶大。明治時代に岩月藤エ門という人物の手で制作されたもので、堂内にはもう一体、阿弥陀仏になる前の「宝蔵菩薩」とされる像も並んでいます。

まさか、公園のすぐ隣にこんなに深い歴史と強烈な存在感を持つ仏像があるとは思ってもみませんでした。静かに、でも確かに、この地で人々の信仰を集めてきた応仁寺。その存在に触れられたのは、思わぬ発見であり、旅の大きな収穫でした。

 

哲学たいけん村 無我苑

数年前、深夜のテレビ番組で偶然目にした「哲学たいけん村 無我苑」の特集。静謐な日本庭園、木漏れ日の中をゆっくりと歩く人々、そして心の奥に語りかけてくるような「無我」という言葉の響き。その時から、「いつかこの場所を訪れてみたい」とずっと思い続けていました。そして、ようやくその願いを叶えることができた今回の旅。碧南市と安城市を巡る一日旅の締めくくりとして、無我苑を訪れました。

まず最初に足を運んだのは、苑内にある「立礼茶席」。この日は朝から碧南市と安城市を歩き回っていたため、さすがに疲れが溜まってきていた頃合い。ちょうどよく、心も身体も一息つける場所を探していたところでした。

「立礼茶席」では、椅子に座ったまま気軽にお抹茶と季節のお菓子を楽しむことができます。畳の茶室とはまた違った開かれた空間で、初めて訪れる人にも優しい雰囲気。抹茶のほろ苦さと甘い和菓子が絶妙で、歩き疲れた身体にじんわりと染み渡りました。目の前に広がる手入れの行き届いた日本庭園も見事で、まるで一枚の絵のよう。隣に座っていたご夫婦とも自然と会話が弾み、お互いの旅の思い出を語り合いながら、和やかな時間を過ごしました。まったりとくつろげるこの空間、ぜひまた訪れたいと思わせてくれました。

少し休憩した後は、苑内の散策へ。無我苑の敷地は思った以上に広く、自然に囲まれた空間が広がっています。その中でも特に印象に残ったのが、「二重露地」と呼ばれる空間です。これは、茶道の流れをくむ空間設計で、外露地を高い塀で囲むことで、外界と切り離された特別な世界を演出しています。古田織部の弟子・上田宗箇が試みたとされるこの形式は、全国的にも珍しいとのこと。まるで俗世を離れて、自分だけの時間が流れているかのような不思議な感覚に包まれました。

無我苑のメイン施設ともいえる「瞑想回廊」にも足を運びました。名前の通り、静かな回廊を歩きながら、自らの心と向き合うことができる場所です。この日はちょうど「ポスターでたどる日本アニメ映画の世界展」が開催されており、懐かしさと新鮮さの入り混じった展示が印象的でした。哲学的な空間の中に、現代カルチャーが溶け込んでいるような、興味深い組み合わせに感じられました。

無我苑は、ただの観光施設ではありません。実はここは、日本全国に向けて「無我愛」を主唱し、この地に居を構えた宗教思想家・伊藤証信翁のご遺族が、土地や施設を碧南市へ寄付したことから建設されたものです。その理念には、「静かな環境に身をおいて心を落ち着かせ心の安らぎを得るとともに、自らを振り返って考え明日への活力を起こしていただくこと」が込められているそうです。その想いが、苑内のすみずみにまで丁寧に息づいていることを、今回の訪問で強く感じました。

心を落ち着けたいとき、自分自身と対話したいとき、あるいはちょっと日常を離れて静かな時間を持ちたいとき。そんなときに、この無我苑はきっと応えてくれる場所です。旅の途中で訪れた小さな楽園のようなこの場所で、私は自分自身の「今」と静かに向き合うことができました。

またふと立ち止まりたくなったら、きっとここに戻ってきたいと思います。

この後は、碧南市のコミュニティバス「くるくるバス」に乗って、北新川駅へ。電車で高浜市に向かうことにしました。

碧南市、安城市、再び碧南市と続いたこの旅は、高浜市へつづく。

◆地図

〒447-0087 愛知県碧南市坂口町3丁目100

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