智積院の祈りと名勝庭園 ― 初めて歩く伽藍の記録 ( 京都府京都市の旅 : 2025-05-23 )

 

 

智積院(京都府京都市)

養源院をあとにし、向かった先は、かねてから名前だけは知っていた「智積院(ちしゃくいん)」。


真言宗智山派の総本山であり、東山七条の一角に広がる広大な寺院です。

境内に入る前に立ち寄った案内板の「境内図」を見て、その広さに驚きました。

伽藍、塔頭、庭園、宝物館など見どころが多く、これをすべてじっくり巡れば半日は必要そうです。しかしこの日は帰りの新幹線まであまり時間がなく、少し駆け足での参拝になりました。

 

まずは宝物館へ ― 展示テーマ「智積院のいのり」

最初に向かったのは「宝物館」。

智積院の歴史的な文化財が数多く収蔵されており、この日は展示テーマ「智積院のいのり」が開催中でした。


この展示では、智積院が何世紀にもわたり守り続けてきた「祈り」のかたちが、仏画や仏具、経典を通じて紹介されています。特に目を引いたのは、桃山時代から江戸時代初期にかけての絢爛な障壁画と、精緻な仏画の数々。

長谷川等伯やその子・久蔵による障壁画は、金箔地に描かれた大画面が圧倒的で、松や桜、四季の花々が生き生きと表現されています。その一枚一枚から、祈りの場を荘厳に包み込もうとした画家たちの意図が伝わってきます。また、修行僧が使った法具や経巻からは、日々の勤行と祈願が現代まで受け継がれていることを感じました。展示室は静かで、時間がゆっくり流れているような感覚になります。

 

宿坊智積院会館をちらり

宝物館を出たあとは、境内の中心にある「宿坊 智積院会館」へ。

ここは一般の宿泊や精進料理も体験できる施設ですが、この日は時間がなく、ロビーからレストランの雰囲気をちらりと眺めるだけ。

それでも、木のぬくもりと大きな窓からの光が印象的で、次回はぜひ泊まりがけで訪れたいと思いました。

 

鐘楼堂と金堂 ― 伽藍の中心

次に足を向けたのは「鐘楼堂」。

大きな梵鐘が青空の下に構えられており、境内の静けさと相まって荘厳な雰囲気です。鐘楼のそばには立派な石段があり、それを上がると、金堂が正面に現れます。

金堂は平成7年(1995年)に再建された比較的新しい建物ですが、その規模と造りは圧巻。

朱と金が映える堂宇は、真言宗智山派の総本山にふさわしい堂々たる姿です。内部は広く、中央のご本尊・大日如来像が静かに鎮座しています。堂内に満ちる香の香りと、僧侶の読経が響く空間は、時間を忘れさせるほど心地よく、まさに「祈りの場」という言葉がぴったりでした。

 

明王堂と仏足石

金堂の隣にひっそりと建つのが「明王堂」。

やや小ぶりながらも歴史を感じさせる佇まいで、境内の中でも落ち着いた雰囲気を漂わせています。堂内には不動明王が祀られ、厳しい表情ながらも人々を守護する存在感が伝わってきます。

近くで目にとまったのが「仏足石」。

仏陀の足跡を石に刻んだもので、日本ではあまり多くは見られない珍しいものです。足跡の中には法輪や蓮華などの文様が刻まれており、信仰のシンボルとして大切にされてきたことがわかります。

 

講堂と大書院 ― 名勝庭園を望む

いよいよ拝観料を払い、講堂エリアへ。

講堂は広々とした外廊下が印象的で、そこから見える庭園の新緑が実に鮮やかです。苔や葉が瑞々しく輝き、池の水面にも柔らかな光が反射していました。

講堂から続く大書院には、豪華な襖絵や屏風が展示されています。金箔を背景にした花鳥図や山水図は、どれも空間を贅沢に使いながらも繊細な筆致で描かれており、室内にいながら自然の息吹を感じさせてくれます。

そして、大書院から望む「名勝庭園」。桃山時代の作庭と伝えられ、石組み、池、樹木が絶妙なバランスで配置されています。特にこの日は新緑の時期で、青もみじが庭全体を包み込むように広がり、池の水面に映る様子は息をのむ美しさでした。遠くの築山や石橋の配置にも洗練された美意識が感じられ、思わず時間を忘れて見入ってしまいます。

拝観者の多くが外国人観光客。英語やフランス語、中国語など、さまざまな言葉が飛び交っていましたが、皆、庭園を前にすると一様に静まり、しばし見入っている姿が印象的でした。美しさや荘厳さは、国や言葉を超えて人々の心に響くのだと改めて感じます。

こうして宝物館から庭園まで、駆け足ながらも智積院の魅力を存分に味わうことができました。特に「智積院のいのり」展で感じた歴史と信仰の重み、金堂の荘厳さ、大書院からの庭園の眺めは、この日一番の思い出です。次回はぜひ時間をたっぷり取って、宿坊にも泊まり、朝の勤行や夜の静かな庭園も体験してみたいと思います。

 

住所 / 地図

〒605-0932 京都府京都市東山区妙法院前側町451

 

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