醒ヶ井駅と旧醒井郵便局を訪ねて – 中山道の静かな玄関口で出会った涼やかな時間 – ( 滋賀県米原市の旅 : 2025-07-13 )

 

醒ヶ井駅と旧醒井郵便局(滋賀県米原市)

山あいに佇む、JR東海最西端の駅「醒ヶ井駅」

2025年7月13日。真夏の陽射しがまぶしい午後、私は米原駅から岐阜方面へ一駅戻り、「醒ヶ井(さめがい)駅」に降り立ちました。

滋賀県米原市にあるこの駅は、JR東海の在来線としては最も西に位置する駅です。つまり、ここから西側――京都・大阪方面はJR西日本の管轄になるという、いわば“境界の駅”。地図で見ると、ちょうど鉄道の接点のような場所にあります。

ホームに立つと、想像以上に広い構内に驚かされます。ホームは新幹線が停まってもおかしくないほどの長さで、かつて貨物列車の取り扱いや行き違いのために拡張された名残だといいます。

ふと見上げると、山々が駅をぐるりと囲み、夏の青空を背景に深い緑がまぶしく輝いていました。まるで絵画のような風景です。

醒ヶ井駅が開設されたのは、明治22年(1889年)4月16日。東海道本線の関ケ原~大津間の開通に伴い誕生しました。駅の開業によって、それまで中山道の宿場町として栄えていた醒井宿にも鉄道交通の恩恵がもたらされ、地域の物流や人の往来がより活発になったといいます。

現在の駅舎は、昭和中期に建てられた木造平屋の建物。老朽化の跡はあるものの、どっしりとした佇まいが印象的で、昔ながらの地方駅の風情を色濃く残しています。

駅舎の庇にはスズメの巣があり、親鳥がお世話をする姿に思わず頬がゆるみました。こうした小さな営みが、この駅の穏やかな時間の流れを象徴しているようです。

駅前の静けさと、山の新緑がつくる風景

駅前に出ると、そこはひっそりとした住宅街。

小さな飲食店が一軒あるものの、昼下がりの時間帯ということもあり、人の気配は少なく、蝉の声だけが響いていました。駅の向こうには兜黛山がそびえ、その新緑が真夏の日差しを受けてきらめいています。

醒ヶ井は「湧水の里」として知られ、駅の北側を流れる地蔵川には、夏になると“梅花藻(ばいかも)”という白い小花が咲くことで有名です。地蔵川周辺は多くの観光客で賑わうのですが、駅前は意外にも静かで、観光地の喧騒とは無縁の落ち着いた雰囲気が広がっていました。

駅から東へ100メートルほど歩くと、左手に一際目を引くモダンな建物が見えてきます。それが、今回の目的地のひとつ「米原市醒井宿資料館(旧醒井郵便局局舎)」です。

周囲の木造家屋の中でひときわ洋風の意匠が際立ち、思わず足を止めて見入ってしまいました。

米原市醒井宿資料館(旧醒井郵便局局舎)――ヴォーリズ建築の息づく場所

醒井宿資料館として公開されているこの建物は、もともと「醒井郵便局」として大正4年(1915年)に建てられました。設計を手がけたのは、米国出身の建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズ。彼は近江八幡を拠点に数多くの近代建築を残した人物で、醒井郵便局もそのひとつです。

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当初は木造2階建ての擬洋風建築として誕生しましたが、昭和9年(1934年)には外壁をモルタルで覆い、玄関位置や内部の間取りを変更。より近代的なネオクラシシズム風の外観へと姿を変えました。その端正な白壁とアーチ窓は、今見てもモダンで上品な印象を放っています。

建物は昭和48年(1973年)まで実際に郵便局として使用され、地域の通信の要として長く親しまれてきました。現在は「米原市醒井宿資料館」として保存・公開され、国の登録有形文化財にも指定されています。館内に入ると、当時のカウンターや木製階段がそのまま残されており、時代を超えた息づかいを感じます。

1階部分は無料で利用でき、当時の郵便局で提供されていた通信サービスを象徴する昔ながらの電話ボックス(公衆電話)が展示されています。

2階は有料展示エリアで、醒井宿や中山道の歴史、宿場町の生活文化を深く知ることができます。

外観こそ洋風ですが、館内に足を踏み入れると、天井や柱、建具には日本家屋の技が随所に生きており、和と洋が見事に融合した空間です。白い壁に木の温もりが映え、窓から差し込む柔らかな光が床をやさしく照らしていました。建物そのものが、時代を超えた芸術作品のようで、「こんな家に住んでみたいな」と心から思いました。

館を出ると、目の前には夏の光があふれ、白壁の建物が青空にくっきりと映え、その姿はどこか時間が止まったかのように見えました。

次回は、旧中山道沿いに残る醒井宿の町並みや、梅花藻が咲く地蔵川の風景を紹介したいと思います。つづく。

地図

〒521-0035 滋賀県米原市醒井592

 

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