長篠・設楽原の戦いを歩く旅:長篠・設楽原決戦場跡 / 設楽原歴史資料館(愛知県新城市の旅:2025-04-26)
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長篠・設楽原決戦場跡 / 設楽原歴史資料館(愛知県新城市)
家康本陣跡から山を越え、決戦の地へ
静かな里山の風景に包まれた愛知県新城市。そこに、戦国時代を大きく動かした「長篠・設楽原の戦い」の舞台が今も残っています。最初に訪れたのは、徳川家康の本陣跡と八剱神社。落ち着いた佇まいの中にも、かつての緊迫した空気を想像させる空間でした。
ここからいよいよ、戦いの中心地となった決戦場跡を目指します。案内板に従って歩を進めると、道は次第に山道へと変わっていきました。木々の間を抜けて小高い山を越えた先、連吾川の流れに寄り添うように広がる平地。そこに、歴史に刻まれた激戦の痕跡が静かに佇んでいました。
馬防柵に見た、知略と準備の跡
到着してまず目を引いたのは、整然と並んだ「馬防柵」。
戦国の時代、信長が武田の騎馬軍団に対抗するために設けた防御策が、今に再現されているのです。
当時の設楽原は、今ほど樹木の多い土地ではなく、大木を現地で調達するのは困難だったといいます。そのため信長は、岐阜から兵士に丸太を一本ずつ運ばせて、この地に柵を築かせたそうです。その規模は、まるで設楽原全体をひとつの巨大な城に見立てたような発想だったとか。
現在の馬防柵は、地元の「設楽原をまもる会」によって再現・管理されており、約5年ごとに造り直されています。丸太の並びや高さが揃ったその姿は、単なる展示物ではなく、地域の人々によって守られてきた歴史への敬意が込められているようでした。
戦場となった一帯は今、田畑と森林に囲まれた穏やかな風景に変わっていますが、その静けさの中にもかつての攻防を想像させる力強さが感じられました。
対岸の山に思いを馳せて
視線を上げると、連吾川の向こうに見える山々。あの山の中腹には、武田勝頼が戦況を見守ったとされる観戦地、そして武田二十四将の一人、内藤昌豊の石碑があるとのこと。
今回の旅ではそこまで足を伸ばすことはできませんでしたが、こうして現地の風景と歴史的背景を照らし合わせながら歩く時間は、書物で読む戦国とはまた違ったリアルな感覚を与えてくれます。
平地に広がる田畑の向こう側には、かつての激戦の気配が、静かに息づいているようでした。
資料館で火縄銃と戦国の知恵にふれる
決戦場跡を後にし、道なりに10分ほど歩くと「設楽原歴史資料館」が見えてきます。
到着してまず目に入ったのは、敷地内に併設された雰囲気の良いカフェ。
しかしこの日はあいにくの休業日。落ち着いた庭の景色を眺めつつ、気持ちを切り替えて館内へ。
展示の入り口には、ひときわ大きな大鉄砲が展示されていました。
明治の西南戦争で使われたと伝わっていたものの、実は鳥猟用ではないかという説もあるそうです。見上げるほどの大きさに、用途の真偽を超えてロマンを感じてしまいます。
そして、戦国ファンにはたまらない「信玄砲」の展示も。
名将・武田信玄を狙撃したという伝説が残る火縄銃で、日本最古の部類に属すると言われています。この一丁から繋がる物語に、胸が熱くなりました。
また、武田四天王のひとり・山県昌景の最期の姿を描いた浮世絵もあり、戦国の終焉を実感させてくれます。
信長の近代戦術と、それに挑んだ武田軍。展示のひとつひとつが、彼らの誇りと哀しみを伝えてくれるようでした。
また、幕末の外交官・岩瀬忠震についての紹介も展示されています。
新城市にゆかりのある人物で、日米修好通商条約の交渉にあたった人物。戦国と幕末という二つの変革期に生きた人々の姿が、この資料館には集められています。
展望デッキで俯瞰する、歴史と現在
展示室を巡ったあとは、施設の屋上に上がってみました。ここからは、先ほど訪れた決戦場跡や馬防柵のあるエリアが一望できます。周囲を囲む山々、穏やかな田畑の広がり、そして緑に包まれた川沿いの地形。そのすべてが、戦の記憶を静かにたたえているように見えました。
人の声も車の音も遠く、風が通り抜ける音だけが響くこの場所に立つと、自然と深呼吸をしたくなります。戦国の知略と覚悟が交差した設楽原という場所が、今はこうして平和の風景として残っていることに、不思議な安堵を覚えました。
今回歩いた長篠・設楽原の戦いの舞台は、戦国時代の変革を象徴する場所です。
鉄砲という新しい武器を取り入れた戦術、知略を尽くした防御線、そしてそこに立ち向かった名だたる武将たち。それらの物語が、今もこの地に確かに刻まれています。
風景に触れ、資料を読み、そして馬防柵を目の当たりにすることで、単なる歴史知識では得られない感覚を味わうことができました。歴史を立体的に感じたい方にとって、この地はきっと特別な旅先になることでしょう。
次はぜひ、武田側の視点に立って観戦地や石碑を訪れ、より広い視野でこの戦いをたどってみたいと思います。
所在地
〒441-1304 愛知県新城市大宮清水1−9