近江風土記の丘・滋賀県立安土城考古博物館（滋賀県近江八幡市）

安土城跡を下山し、石段で酷使した足を気にしつつ、再びレンタサイクルにまたがりました。

次の目的地までは、およそ10分ほど。距離としては短いものの、登城後の体にはなかなか応えます。それでも、安土の旅はまだ終わりません。ペダルを踏み込み、気持ちを切り替えて東へ向かいました。

やがて視界がひらけ、繖山を見下ろす丘陵地に到着します。
ここが「近江風土記の丘」。安土城周辺の歴史や文化を、自然の地形を活かしながら体感できる史跡公園です。

この一帯には、近江風土記の丘（史跡公園）と安土文芸の郷公園という、性格の異なる二つの公園が隣接しています。
歴史や考古を軸にした近江風土記の丘に対し、安土文芸の郷公園は文化施設やレストラン、広場などが整備され、観光客だけでなく地元の方々にも親しまれている場所です。

今回はまず、歴史の流れをじっくり味わえる近江風土記の丘から歩くことにしました。

丘を歩きながら、安土を感じる

近江風土記の丘は、よくある「展示を見るための施設」というよりも、「歩いて巡る場所」です。
園内には城跡や古墳、移築された歴史的建造物が点在しており、それらを結ぶ道を自分の足でたどっていきます。

安土城跡の緊張感ある登山とは違い、こちらはどこか穏やかです。
木々の間を抜ける風を感じながら歩いていると、歴史と自然が溶け合っているような、不思議な感覚になります。

滋賀県立安土城考古博物館へ

園内でまず訪れたのが、滋賀県立安土城考古博物館です。

もともとは「近江風土記の丘資料館」として開館し、1992年に拡充整備された施設で、現在は考古学・歴史研究の拠点となっています。

建物に入ると、二階まで吹き抜けになったロビーが迎えてくれました。

ガラス越しに自然光が差し込み、歩き疲れた体と気持ちを、やさしく落ち着かせてくれます。

館内には中庭があり、内側から眺める建物の表情も美しく、つい立ち止まって見入ってしまいました。

ロビーの一角にはカフェもあり、近江牛を使った「うつけうどん」や戦国時代にちなんだメニューが並んでいます。今回は展示を優先しましたが、次に来る機会があればぜひ立ち寄りたいところです。

展示でつながる、歩いた風景と歴史

有料展示エリアでは、縄文時代から古墳時代、そして戦国時代へと、近江の歴史が丁寧に紹介されています。
土器や石器といった出土品を見ていると、安土という土地が、信長以前から人々の営みの場であったことがよく分かります。

城郭や戦国時代の展示では、安土城跡や観音寺城、周辺遺跡の資料が並び、先ほど実際に歩いた石垣や曲輪が、頭の中で立体的につながっていきました。
「見てから知る」だけでなく、「歩いたあとに理解する」。この順番が、とても心地よく感じられます。

幻の安土城を体感する映像

特に印象に残ったのが、高精細フルCG映像
「織田信長と安土城〜宣教師ヴァリニャーノが見た天下人の城〜」です。

180度スクリーンに映し出される安土城は、想像以上に壮大でした。
現存せず、正確な姿が分からない天主を、最新の研究成果をもとに再現した映像は、まるで信長と同じ場所に立ち、城下を見下ろしているような感覚になります。

石段を登り切ったあとでこの映像を見ることで、先ほどの疲れや暑さまでもが、「体験」として一本の線につながったように感じました。
この15分の映像だけでも、博物館を訪れた価値は十分にあります。

史跡公園を歩く楽しさ

博物館を出たあとは、近江風土記の丘内に点在する歴史的建造物を巡りました。
広い芝生と池を背景に、建物が静かに佇んでいます。

旧安土巡査駐在所は、明治時代に建てられた木造建築で、当時の地域警察の拠点でした。簡素ながらも実直な佇まいが印象に残ります。

旧宮地家住宅（重要文化財）は、江戸時代の農家住宅を移築したものです。太い梁や広い土間から、当時の暮らしの重みが伝わってきます。

旧柳原学校校舎は、明治初期に建てられた学校建築で、近代教育が地方へ広がっていった時代を今に伝えています。どこか懐かしさを感じる建物でした。

歩きすぎたけれど、心地よい時間

安土城跡に続き、ここでもかなり歩きましたが、不思議と嫌な疲れではありませんでした。
自然の中で、歴史と向き合いながら歩く時間は、どこか贅沢です。

近江風土記の丘は、展示を見るだけでなく、歩くことで安土の時間を体感できる場所でした。
このあと訪れる安土文芸の郷公園、そして信長の館へと、旅はまだ続きます。

今回の旅は、歴史を「知る」だけでなく、土地の空気ごと味わう時間だったように思います。

地図

〒521-1311 滋賀県近江八幡市安土町下豊浦６６７８