大徳寺の静寂に抱かれて。興臨院で味わう禅庭と紅葉 (京都府京都市の旅 : 2025-12-13)
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大徳寺 / 興臨院(京都府京都市)
2025年12月13日。 カレンダーの上では冬本番を迎える時期ですが、この日の京都は驚くほど穏やかな空気に包まれていました。 最高気温も12月にしては高めで、歩いているとじんわりと汗ばむような、そんな「小春日和」という言葉がぴったりの散策日和。
今回は、京都の北に位置する禅宗の聖地・大徳寺、そしてその数ある塔頭の中でも武士の美意識が色濃く残る興臨院(こうりんいん)を巡る旅の記録を、たっぷりと綴っていきたいと思います。
旅のプロローグ:京都駅から、日常と非日常が交差する「北大路」へ
旅のスタート地点は、いつものように京都駅。
ここから舞台を地下へと移し、地下鉄烏丸線に乗車します。 目指すは「北大路駅」。京都市内を南北に貫くこの路線は、観光客で溢れかえる四条や五条を通り過ぎ、北へ進むほどに落ち着いた日常の風景へと変わっていきます。
人生初の「北大路駅」での驚き
人生で初めて降り立った北大路駅。
地下ホームから地上へとエスカレーターを上がると、そこには私の想像を超えた光景が広がっていました。 駅と直結する形で、巨大な商業施設「イオンモール北大路(旧ビブレ)」が展開されているのです。
「駅直結でイオンモールがあって、そのままバスに乗れるなんて……。この便利さは、京都に住んでいる人が羨ましすぎる!」
思わずそう独り言を漏らしてしまいました。ここは京都市北部のバス路線のハブとなっており、ここからバスに乗れば、金閣寺や上賀茂神社などへもスムーズにアクセスできます。まさに「北の玄関口」と呼ぶにふさわしい場所。 今回はこの北大路駅周辺を拠点に、ゆっくりと自分の足で街の空気を感じることにしました。
大徳寺へのアプローチ:20分の散歩道に漂う冬の光
北大路駅から西へ向かって、ゆっくりと歩き始めます。
道沿いの民家の軒先に飾られた鉢植えや、ふと立ち止まれば香る冬の空気。 20分ほどの散策路は、観光地の喧騒とは無縁の、静かな時間が流れています。やがて、松の木々が重なり合うように見える一角が現れます。そこが、今回の旅の舞台となる大徳寺の入り口です。
禅の世界への入り口「総門」
大徳寺の総門をくぐり、一歩境内へ足を踏み入れると、そこが京都市内であることを忘れてしまうほどの静寂に包まれます。
大徳寺は、一休さんとして知られる一休宗純が再興に尽力したことでも有名です。また、千利休が切腹の引き金となった「金毛閣(三門)」を建てた場所であり、織田信長や豊臣秀吉、前田利家といった戦国大名たちがこぞって菩提寺を構えた、いわば「歴史の重層地」です。
派手な観光看板もなければ、大きな声を出す人もいない。 整えられた松の木陰が地面に落とす影さえも、何か深い意味を持っているように感じられます。ここは「何もしない贅沢」を味わうには、これ以上ない最高の場所です。
迷宮のごとき「塔頭(たっちゅう)」の迷い方
大徳寺を訪れてまず驚くのは、その広大な境内に点在する小さな寺院の多さです。 これらを「塔頭(たっちゅう)」と呼び、大徳寺の中には20を超える塔頭が存在します。もともとは高僧の墓所や隠居所として建てられたものですが、大徳寺においては、それぞれの寺院が独自の庭園や建築、そして歴史を守り続けています。
有料で公開されている場所もあれば、ひっそりと門を閉じている場所もある。 迷路のような石畳を歩きながら、その日の気分に合った門をくぐり、自分好みの庭園を見つけること。これこそが大徳寺を訪れる旅の醍醐味です。
私も歩を進めるごとに、「次はどこへ入ろうか」という期待に胸が膨らみ、すっかりこの庭園めぐりの虜になってしまいました。
威厳を語る「勅使門」と、開かない門の物語
総門を入ってすぐ、まず目に飛び込んでくるのが「勅使門」です。 境内の中心部に堂々と構えるこの門は、かつて天皇の使者(勅使)だけが通ることを許された特別な場所。
桃山時代の意匠が凝らされたその姿は、華美すぎず、しかし細部まで計算された職人のこだわりが詰まっています。現在は固く閉ざされていますが、その「開かないからこその威厳」が、訪れる者の背筋を自然と伸ばさせます。
興臨院、武士の美意識と静寂の調和
勅使門を過ぎ、さらに奥へと進むと、今回のメイン目的地である興臨院(こうりんいん)が現れます。
門をくぐった瞬間、空気の密度が変わったような気がしました。 興臨院は、能登の守護大名・畠山義総によって建立され、その後、豊臣政権の五大老を務めた前田利家が本堂屋根を修復した縁から、前田家の菩提寺となった場所。 一言で言えば、ここは「武士の美学」が息づく場所です。
室町建築の極致:重要文化財の本堂(方丈)
目の前に現れる本堂(方丈)は、室町時代の禅宗建築様式を今に伝える、非常に貴重な遺構として重要文化財に指定されています。
その美しさは、潔いまでの「直線美」にあります。 派手な金箔や彩色を排し、木材の質感と空間の調和だけで構成された空間。 縁側に腰を下ろすと、歩くたびに微かに鳴る床の音が、静寂の中に心地よいリズムを刻んでくれます。
理想郷を写した「枯山水庭園」の光と影
方丈の前に広がる庭園は、昭和の名造園家・中根金作によって復元されたものです。 力強い石組みは、仙人が住む理想郷「蓬莱世界」を表現しているのだとか。
この日は天気が非常に良く、高い位置にある太陽が、白い砂紋(さもん)をまばゆいばかりに照らしていました。砂の白さと、周囲を縁取る青々とした苔の絨毯。そのコントラストが、目を見張るほど鮮やかです。
紅葉の盛りは過ぎていましたが、それがかえって幻想的な風景を作り出していました。
散り始めた真っ赤な楓の葉が、白い砂紋の上にハラリと落ち、そこに冬の低い日差しが長い影を落としています。 一枝、一葉が計算された配置であるかのように庭を彩り、二度と同じ表情は見られない「一期一会の美」を演出していました。
立ってみたり、座ってみたり。視点を変えるたびに、庭園は山脈に見えたり、大海原に見えたりと、さまざまに姿を変えます。
私は利用しませんでしたが、敷地内には茶室「涵虚亭(かんきょてい)」もあり、お茶の文化を重んじる大徳寺らしさを随所に感じることができました。
エピローグ:旅は「瑞峯院」へ、さらなる深淵へ
興臨院の縁側で過ごした時間は、現代の忙しさを忘れさせてくれる、贅沢なひとときでした。 12月とは思えない暖かい日差し、白い砂紋、そして散り紅葉。 全ての条件が奇跡的に重なった、最高のタイミングでの訪問となりました。
しかし、大徳寺の魅力はこれだけではありません。 名残惜しさを感じながらも、次なる目的地、「瑞峯院」へと足を向けます。
庭園めぐりの旅は、まだまだ続きます。 続きは次回の記事で。
住所 / 地図
〒603-8231 京都府京都市北区紫野大徳寺町53




























