大徳寺・芳春院盆栽庭園。加賀百万石の矜持と、鉢の中に広がる「生きた禅」の小宇宙 (京都府京都市の旅 : 2025-12-13)
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大徳寺・芳春院盆栽庭園(京都府京都市)
大徳寺の広大な境内を巡る旅も、いよいよ大詰めを迎えました。瑞峯院の独創性、大仙院の室町美学に触れた後、私はさらに北へと続く静かな道を歩みました。
たどり着いたのは、境内の北端に位置する「芳春院(ほうしゅんいん)」。ここは、加賀藩祖・前田利家の正室であるまつ(芳春院)によって慶長13年(1608年)に建立された、前田家の菩提寺です。戦国を生き抜き、加賀百万石の礎を築いた「まつ」の強さと気品が、今もこの地の空気に溶け込んでいます。
京の四閣「呑湖閣」を抱く、加賀百万石の菩提寺
訪れた日はあいにく境内は非公開でしたが、門の外からでも、前田家という巨大な権力の威信と、それを支えた「まつ」の追慕の念が伝わってきます。
ここ芳春院には、建築史的にも極めて重要な楼閣が存在します。それが、金閣・銀閣・飛雲閣と並び「京の四閣」の一つに数えられる「呑湖閣(どんこかく)」です。
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呑湖閣の由来: 比叡山の麓に広がる琵琶湖を、閣上から一望し「飲み込む」かのような景観を願って名付けられたと言われています。かつてはこの二重構造の楼閣から、遠く近江の山々を望むことができたという、非常に詩的な構想に基づいた名建築です。
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花照庭の静謐: 本堂前には「花照庭(かしょうてい)」と名付けられた枯山水が広がります。白砂と苔が織りなすその庭園は、華やかな加賀文化の面影を残しつつも、禅寺らしい抑制された美しさを保っています。
通常は非公開の壁の向こう側には、前田家の威信をかけた障壁画や、歴史の荒波を越えて再建された建築美が眠っています。いつか特別公開の折に、利家とまつが見つめたであろうその風景を間近に鑑賞したい……そんな再訪への願いを抱かせる、格調高い佇まいでした。
芳春院盆栽庭園:歳月を凝縮した「生きた芸術」
芳春院の重厚な門を後にし、南西に位置する「芳春院盆栽庭園」へと足を運びました。こちらは一般に公開されており、日本でも非常に珍しい「寺院内にある本格的な盆栽展示施設」として、国内外の愛好家を惹きつけています。
一歩足を踏み入れると、そこには寺院建築の直線美と、自然の曲線が見事に調和した、静謐な空間が広がっていました。
鉢の中に宿る、数百年の生命力
展示されているのは、樹齢数十年から、中には数百年を数える名品ばかり。盆栽とは単に「木を小さく育てる技術」ではなく、長い年月をかけて自然の摂理を鉢の中に再現する「生きた芸術」なのだと、目の前の樹木たちが雄弁に語りかけてきます。
盆栽にみる禅の精神 幹の力強いうねり、計算し尽くされた枝の広がり、そして大地を掴むような根の張り。それらは職人の緻密な手入れと、気の遠くなるような歳月の積み重ねによって形作られています。 鉢の中に壮大な山水を見出し、限られた空間に無限の広がりを感じる。それはまさに、これまで大徳寺の各塔頭で目にしてきた「禅の美意識」の延長線上にあります。
静寂の回廊で自分と向き合う
展示を眺めながら静かな回廊を歩いていると、不思議と日常の喧騒が遠のいていきます。
数百年の時を生きる樹木の前では、自分自身の悩みや時間の感覚さえも、ちっぽけなものに感じられてくる。鉢の中に形成された「小宇宙」と対峙することは、そのまま自分自身の内面と向き合う、極めて哲学的なひとときとなりました。
自然の生命力を一滴も漏らさず凝縮したかのような名品の数々に深い感銘を受け、私はようやく大徳寺の広大な境内を後にすることに決めました。
旅は今宮門前通りへ。次なる聖域、今宮神社へ
大徳寺を西へ抜けると、道は「今宮門前通り」へと繋がります。 重厚な禅の宇宙を抜けた後の、どこか開放的な空気を感じながら、次なる目的地である今宮神社へと向かいます。
ここ大徳寺で触れた、利休の美学、武将たちの祈り、そして盆栽に宿る永遠。それらの余韻を胸に、朱色の鳥居が待つ社へと歩みを進めました。
(次のブログへつづく)
住所 / 地図
〒603-8231 京都府京都市北区紫野大徳寺町53


















