大正路地から日本大正村役場、そして司葉子記念館へ――石畳のノスタルジーに浸り、昭和の大女優の足跡を辿る(岐阜県恵那市の旅:2026-02-21)

 

大正路地・日本大正村役場・司葉子記念館(岐阜県恵那市)

大正路地:時が止まった石畳の小道に迷い込む

日本大正村の資料館巡りを終えた私が次に向かったのは、この村のメイン通りであり、象徴とも言える「大正路地」です。

岐阜県恵那市明智町にある日本大正村は、特定の敷地に古い建物を集めた一般的なテーマパークとは異なり、今も住民が暮らす実際の町全体が“大正時代のテーマパーク”のようになっている、全国的にも非常に珍しい観光地です。明治末期から大正時代にかけて建てられた本物の建造物や、当時の面影をそのまま残す路地が生活の風景としてあちこちに溶け込んでおり、ただ目的もなく歩くだけでも、一瞬にして大正浪漫の濃密な雰囲気を肌で味わうことができます。

その中でも、この大正路地は日本大正村のノスタルジックな空気が最も凝縮された、美しい石畳の小道です。路地の両側を見渡すと、かつてこの町の繁栄を支えた米蔵や呉服店の蔵がずらりと並んでおり、情緒ある白壁や味わい深い木造建築がどこまでも続いています。

一歩この路地に足を踏み入れて歩いてみると、そこには現代の賑やかな観光地特有の騒々しさは一切なく、まるで「昔の町にそのまま迷い込んでしまった」かのような、静かで張り詰めたような静けさが満ちています。

ここは、派手なアトラクションや看板で楽しませる場所ではありません。自分の足が石畳を踏みしめるコツコツという規則正しい音、古い建物の格子や壁が作り出す美しい陰影のコントラスト、そして周囲の木造建築からわずかに漂ってくる、年季の入った木の芳醇な香り――そうした、五感で受け取る繊細な“空気感”そのものを静かに楽しむ、極めて贅沢な場所なのです。

その圧倒的な風情から、映画やドラマのロケ地、あるいは写真映えする最高のスポットとしても非常に高い人気を誇っています。時には、大正時代の女学生を思わせるハイカラな「矢絣(やがすり)柄」の着物をレンタルし、袴姿でこの石畳の路地を嬉しそうに散策する人々の姿も見られるそうです。モノクロの背景のような路地に、鮮やかな着物姿が映える様子は、想像するだけでもまさに大正浪漫そのものの絵になります。


日本大正村役場:文明開化の和洋折衷建築と、変わりゆく寂しさ

大正路地に沿うようにして堂々と佇んでいるのが、次の目的地である「日本大正村役場」です。

この建物は、明治39年(1906年)に築かれた旧明知町役場の庁舎をそのまま利用した、歴史的にも非常に価値の高い建造物です。屋根には日本の伝統的な瓦が美しく葺かれている一方で、建物全体はスマートな木造洋館のスタイルを取っており、和風の技術と洋風のデザインが絶妙に混ざり合った独特の意匠が大きな特徴となっています。

外観をじっくりと眺めていると、どこか“文明開化の時代”の激動のエネルギーが静かに伝わってくるようです。海外の真似事をした純粋な洋風建築ではなく、日本古来の建築技術のベースの中に西洋のモダンな文化を柔軟に取り入れた、この時代ならではの「和洋折衷」の独特な雰囲気が漂っており、大正という、新旧の文化が美しく融合した時代らしさがこれ以上ないほど見事に表現されています。

実は、約7年前となる2018年12月に私が初めて明智町を訪れた際にも、この建物の持つ圧倒的な美しさと佇まいは非常に印象に残っており、今回の旅でも再訪を心から楽しみにしていた施設の一つでした。

しかし、久しぶりに期待に胸を膨らませて役場の重厚な扉を開け、館内へと足を踏み入れてみると、そこには驚くほど誰も人がおらず、ひっそりとした静寂が広がっていました。 かつては観光の案内所や展示の受付として機能していたはずですが、現在は観光客が町歩きの途中で自由に腰を下ろして一息つけるような、「休憩スペース」的な役割へと変化していたのです。

「それなら、以前見学して非常に感動した2階の展示スペースへ上がってみよう」と思い、階段の方へと向かいました。しかし、大変残念なことに、現在は2階への階段の手前でしっかりと「立ち入り禁止」の案内がなされており、上階へ行くことはできなくなっていました。

前回訪れた際、2階のクラシカルな窓越しから眼下に広がる大正路地の美しい石畳と白壁の景色を見下ろしたときのあの感動が、今でも鮮烈に記憶に残っていただけに、もうあの素晴らしい眺めを体験することができなくなってしまったという現状には、旅人としてどうしても隠しきれない寂しさと残念さが込み上げてきました。前回の資料館でも感じた現場の高齢化や担い手不足といった地方観光地のシビアな現状が、この役場庁舎の管理体制の縮小という形でも現れているのかもしれないと、少し複雑な気持ちになります。

それでも、1階の展示スペースに美しく飾られている数々の貴重な写真を見つめていると、すぐに明るい気持ちが戻ってきました。

壁面には、日本大正村の三代目村長として町を愛し、広く発信し続けてくれた竹下景子さんをはじめ、過去の様々なイベントや節目にこの地を華やかに訪れた著名人の方々のお写真が大切に並べられていました。その中には、かつてイベントで大正村を訪れた相田翔子さんの美しいお写真や、双子の女優として国民的人気を誇る「まな・かな(三倉茉奈・佳奈)」ちゃんのお写真もありました。

特に印象的だったのが、大正時代の象徴である可憐な袴姿に身を包んだ、若かりし頃のまな・かなちゃんのお姿です。ハツラツとした笑顔と、大正浪漫のレトロな衣装がこれ以上ないほど完璧にマッチしており、その愛くるしさは「かわかすぎ」という言葉がぴったりなほど、見る者の心を一瞬で和ませてくれる素晴らしい魅力に満ちていました。過去の華やかなお祭りの記憶が、これらの写真を通じて今もこの静かな庁舎の中に大切に息づいていることに、深い安らぎを覚えます。


大正村絵画館:高台に佇む静謐な芸術空間

日本大正村役場をあとにして、大正路地をさらに奥へ。突き当たりまで進んでいくと、目の前の視界が開け、少し高くなった高台の上に端正な建物が現れます。これが「大正村絵画館」です。

この大正村絵画館は、賑やかなお土産店やレトロな街並みが続く日本大正村の観光ルートの中においては、少し系統の異なる、非常に落ち着いた大人の雰囲気を湛えた隠れ家的なスポットです。

ここには、観光客を大がかりに楽しませるような派手な体験型展示や、目を引く仕掛けなどは一切ありません。その代わり、館内には“静かに、自らの心と向き合いながら芸術を心ゆくまで楽しむ空間”としての、凛とした清々しい空気が満ち満ちています。

館内に展示されている数々の絵画作品は、大正ロマンの哀愁漂う世界観や、この東濃地方が持つ豊かな郷土文化、美しい自然の原風景を深く感じさせるものが多く、ここまでレトロな町並みや古い蔵、役場庁舎をずっと歩いてきた旅の流れのままでこの館を訪れると、作品の持つ世界観により一層深く、自然に浸ることができます。

街中の賑やかな観光施設を巡っていると、どうしても歩くペースが早くなったり、情報量の多さに頭が少し疲れてしまったりするものですが、この絵画館は、そうした旅の興奮を優しくクールダウンさせてくれる「静かな時間を過ごす場所」として最適です。散策の途中にふらりと立ち寄るだけで、ざわついていた気持ちがすーっと穏やかに落ち着いていき、旅の心地よい疲れが癒やされていくのを感じることができます。


司葉子記念館:昭和黄金期の華やぎと大正浪漫の美しい融合

大正村絵画館で心の洗濯を済ませた私は、建物のさらに奥へと伸びる静かな小道を進み、次なる目的地である「司葉子記念館」へと足を運びました。

実はこの施設、私が約7年前となる2018年に明智町を訪れた際には、まだ存在していなかった場所です。というのも、この記念館は2021年に新しく開館した、日本大正村の中では比較的新しい最新のスポットだからです。前回の訪問以降に誕生した未知の施設ということもあり、今回の旅では非常に高い関心と期待を持って訪問しました。

「司葉子記念館」は、日本大正村の第2代村長という大役を、なんと16年という長きにわたって務め上げ、この町の発展と文化の保存に多大なる貢献をされた日本を代表する大女優・司葉子さんの偉大な功績を末永くたたえるために建てられた施設です。

白を基調としたモダンながらも町に調和した館内へと一歩足を踏み入れれば、司葉子さんご本人から寄贈されたという、実際に映画の撮影等で着用されたきらびやかな衣装、直筆の書き込みが遺る貴重な台本、往年の名作の映画ポスター、そして彼女の輝かしい歩みを映し出した当時の美麗な写真など、なんと300点以上もの膨大なコレクションが圧倒的なスケールで展示されています。

恥ずかしながら、私は司葉子さんという大女優の現役時代やその具体的なご活躍について、これまで詳しくは存じ上げていませんでした。しかし、展示されている一つひとつの資料や、スクリーンの中で圧倒的な輝きを放っていた彼女の姿を見つめているうちに、その凄まじいオーラと気品に完全に圧倒されてしまいました。

ここには、日本映画の歴史における「昭和映画黄金期」を最前線で牽引したトップスターならではの、息をのむような華やかさとまばゆいエネルギーが満ち溢れています。それでいて、その華やぎが、日本大正村が元々持っている落ち着いた、どこか切なく静かな雰囲気と不思議なほど完璧に調和しているのです。

単なる一人の芸能人の足跡を辿るだけの「タレント記念館」という枠には到底収まりきりません。大正から昭和という、日本が最も激しく、そして美しく変化していった激動の“時代の記憶をそのままパッキングして現代に残す場所”のような、非常に厳かで深い空気がそこには確実に流れていました。

なお、館内にある貴重な展示資料や写真群は、歴史的・文化的な価値を守るため、すべて写真撮影が厳しく禁止されています。だからこそ、カメラのレンズ越しではなく、自分自身の両目でしっかりと一つひとつのディテールを見つめ、記憶に焼き付けるという、旅本来の真摯な鑑賞時間を過ごすことができました。

また、館内には非常に居心地の良さそうな「茶房」も美しく併設されており、静かな芸術と歴史の余韻に浸りながら、散策途中に美味しいお茶をいただいてほっと一息つくのにもぴったりな、至福の空間構成となっていました。


ぶらり旅もいよいよ終盤、次なるクライマックスへ

大正路地のノスタルジーに始まり、明治の役場庁舎が持つ折衷の美、高台の絵画館がもたらす静寂、そして新名所である司葉子記念館での昭和黄金期のきらめきに至るまで、今回の散策もまた、信じられないほど濃密で知的好奇心を満たしてくれる素晴らしい時間となりました。

歩けば歩くほど、歴史の新しい扉が開く明智町の日本大正村ぶらり旅。充実したこの旅の時間も、いよいよ終わりの時が近づき、終盤戦へと突入します。

このあとに私が向かうのは、日本大正村の数あるスポットの中でも、個人的に最もお気に入りの場所であり、大正浪漫の美意識が建築として最高の形で結実した名建築「大正ロマン館」です。 そして旅の最後を締めくくるのは、前回の訪問時にはどうしても時間が足りず、泣く泣く訪れることを断念せざるを得なかった、この地域の歴史の原点とも言える山城「明知城跡(白鷹城跡)」への、満を持してのリベンジ訪問です。

大正時代の華やかなロマンから、再び戦国時代の雄大な歴史の舞台へと回帰していく、この旅の最終章。一体どのような景色と感動が私を待ち受けているのか、今から胸の鼓動が止まりません。

その、旅のフィナーレを飾るにふさわしい最高のエピソードと素晴らしい景色の数々については、次回のブログ記事にて、たっぷりと熱量を持ってお届けしたいと思います。どうぞ、次回の更新を楽しみにお待ちください!

地図

〒509-7731 岐阜県恵那市明智町1860−7

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