岩屋寺を訪ねて(後編)|大師ヶ岳の山道を登り、伊勢湾を一望する巨大な弘法大師立像へ(愛知県 南知多町の旅:2026-05-04)
岩屋寺・弘法大師立像(愛知県知多郡南知多町)
巡礼の道への第一歩と、親大師遥拝所
前回のブログでは、歴史ある岩屋寺の境内に佇む本堂や総欅造りの経蔵といった、厳かな堂宇の様子をお伝えしました。
岩屋寺を訪ねて(前編)|南知多の豊かな自然に抱かれた「尾張高野山」・弘法大師ゆかりの歴史深き古刹を巡る(愛知県 南知多町の旅:2026-05-04)
しかし、この古刹の魅力は境内だけに留まりません。ここからは、本堂の裏手に静かに広がる霊峰「大師ヶ岳(たいしがたけ)」の山道をさらに上へと登り、その頂上にそびえ立っているという巨大な弘法大師立像(大師ヶ岳親大師)を目指す、本格的な参拝の始まりです。
この山頂へと続く参道は、実際にお遍路さんが歩く回峰行のコースにもなっている本格的な道のりです。そのため、足腰に自信がない方や、雨の日などの悪天候で入山が難しいという方のために、登山口の近くには「親大師遥拝所(おやだいしようはいじょ)」が設けられています。山の上まで登ることができなくても、この場所から山頂の親大師様に向かって同じようにお参りをすることができるよう、優しい配慮がなされているのです。もし怪我などをされていて入山に不安がある場合は、無理をせずこちらで心を込めてお参りをすることをおすすめします。
私はこの親大師遥拝所でまずは静かに手を合わせ、これからの道中の安全を祈願しました。そして、仏教において悟りを開いた高僧である「羅漢(らかん)」を表した見事な石像群「五百羅漢」の静かな眼差しに見守られながら、緑深い山道へと一歩を踏み出しました。
表情を変える山道と、点在する仏像を辿る旅
山へと入ると、先ほどまでいた本堂周辺の美しく整えられた参道とは、周囲の雰囲気が大きく異なることに気づかされます。足元には太い木の根が力強く張り巡らされ、場所によっては土が剥き出しになっていて少し滑りやすそうな箇所も見受けられました。今回の旅にあたって、底がしっかりとした歩きやすい靴を選んで訪れたのは本当に大正解だったと感じるほどで、心地よい緊張感とともに、ちょっとしたハイキング気分を存分に味わうことができました。
しかし、その道のりは決して単調なものではありませんでした。山道の途中には、丁寧に番号が付けられた数多くの仏像が途切れることなく点在しているのです。大きな岩陰に隠れるように静かに佇んでいるものや、高く伸びる木々に囲まれながら優しく参拝者を見守っているものなど、そのお姿や表情は一体ごとに実にさまざまです。
山道を一歩進むごとに、新しい仏像と対面しては手を合わせる。それを繰り返しているうちに、自分がただの観光客ではなく、長い歴史を持つ巡礼の道を一歩ずつ踏みしめているような、厳かな気分に満たされていきました。次の番号の仏像を見つけ、確認しながら進むことで、目的地である山頂へ向かう歩みそのものが大きな楽しみに変わっていきました。
周囲には美しい鳥のさえずりや、青々とした木々を優しく揺らす風の音だけが心地よく響き渡っており、ふもとの境内とはまた一味違った、深い静寂が辺りを包み込んでいます。ふと足を止めて木々の隙間から後ろを振り返ると、遠くに知多の青い海がキラキラと顔をのぞかせる瞬間もあり、その美しさに思わず息を呑みました。
山頂への到達と、眼下に広がる伊勢湾の絶景
そのようにして、自然の息吹を感じながらゆっくりと坂道を登っていくと、やがて視界が開け、ついに目的の弘法大師立像が目の前にその雄大な姿を現しました。山の上に堂々とそびえ立つお大師様の姿は圧倒的で、ここまで登ってきた苦労が一瞬で吹き飛ぶほどの感動が胸に押し寄せます。
立像のすぐ前に立って周囲を見渡すと、そこには素晴らしい眺望が待っていました。眼下には、先ほどバスを降りて歩き始めた山海海水浴場周辺の美しい海岸線が弧を描くように広がっており、その先にはどこまでも穏やかで雄大な伊勢湾の景色が続いていたのです。海抜ゼロメートルの海水浴場から、この大師ヶ岳の山頂という高い場所まで、自分の足だけでこの高さを上りきったという充実感は本当に半端なものではなく、言葉にできないほどの達成感が込み上げてきました。高い場所から自分が辿ってきたルートを見渡していると、今日ここまで歩んできた道のりの思い出が、自然と鮮明に思い返されます。
この親大師遥拝所から弘法大師立像までの道のりは、決して単なる山頂への移動区間ではありませんでした。足元にしっかりと気を配りながら自然豊かな山道を進み、途中で出会う数々の仏像に静かに手を合わせ、そして最後に山頂から美しい海の絶景を眺める。その一歩一歩のプロセスすべてに、岩屋寺ならではの奥深い巡礼の趣と魅力が凝縮されているような、非常に印象深い素晴らしい散策路でした。
奥之院への想いと、次なる旅路へ
今回は帰りの時間や全体の行程の都合もあり、泣く泣く訪れることを見送りましたが、この岩屋寺のさらに山奥深くには「奥之院」が存在しています。この奥之院こそが、岩屋寺における信仰のまさに中心ともいえる最も神聖な場所であり、かつて弘法大師空海が実際に百日間の過酷な修行を行ったと伝えられる本物の霊場です。
本堂の周辺とはまったく異なり、あたりには巨大な岩壁や深い原生林に囲まれた神秘的な空間が広がっているそうで、岩屋寺が古くから「山岳信仰の寺」として崇められてきた理由を最も強く肌で感じられる場所として知られています。そちらのエリアについては、ぜひまた次回の機会にこの地を訪れる際の大きなお楽しみとして、大切にとっておきたいと思います。
山頂で素晴らしい絶景とお大師様のお姿を心に焼き付けた私は、大満足のなかでゆっくりと山を下り、再びあの美しい山海海水浴場へと歩いて戻ることにいたしました。海辺へと戻る復路の様子や、そこで出会った景色については、また次のブログにて詳しくお伝えしたいと思います。
地図:岩屋寺
〒470-3322 愛知県知多郡南知多町山海間草109






























