宗次ホール:スイーツタイムコンサート「チェロが奏でる 夏に聞きたい名曲選」鑑賞記 — 心豊かに巡る夏の音色(名古屋市中区 : 2026-08-15)

 

 

宗次ホール:スイーツタイムコンサート(名古屋市中区)

はじめに — 音楽と歩んできた時間と、久々のホールへ

かつて、日常の中にいつも音楽が流れていた時期がありました。もう10年ほど前のことになりますが、クリスマスマーケットで声を合わせて歌ったゴスペル、大勢の仲間とともに情熱を響かせたサックスフェスタ、厳かなコンサートホールで奏でたピアノやクラリネット、そして熱気にあふれるライブハウスでの歌唱やアコースティックギターの弾き語りまで、私は音楽が持つ多面的な魅力に夢中になり、さまざまな形でその世界を楽しませてもらっていました。

しかし、仕事をしながら音楽活動を続けるということは、想像以上にハードな日々でもありました。どうしても週末の貴重な時間はすべて楽器練習に費やされることになり、気づけば深刻な運動不足に陥っていました。さらに日々の仕事のプレッシャーや精神的なストレスも重なり、最終的には健康上の問題を理由に、長年親しんできた楽器演奏からすっぱりと手を引く決断をしたのです。

それ以来、あんなに身近だったコンサートホールやライブハウスへ足繁く通うこともすっかり少なくなり、音楽とは少し距離を置いた静かな生活を送っていました。ですが先日、ふとしたきっかけで「久しぶりに生のクラシック音楽の世界に身を浸し、心と身体をリフレッシュしたい」という思いがふつふつと湧き上がり、急遽、名古屋市内にある「宗次ホール」へ足を運ぶことにしました。

開場前のひととき — 愛知県美術館のカフェで過ごす穏やかな時間

コンサートの開場時間までは少し余裕があったため、まずは愛知県美術館内にあるカフェへと立ち寄りました。栄の賑やかな街中にありながら、このカフェは比較的混雑も少なく、静かで非常に落ち着いた空間が広がっています。

音楽も流れていない静かな店内で、お気に入りのドリンクを味わいながら、読書をしたりと、贅沢でまったりとした事前準備の時間を過ごすことができました。人が少ない落ち着いたカフェで心を静めてからホールに向かうアプローチは、日常の喧騒から離れてクラシック音楽の世界へ没入するための最高の助走となります。静寂の中で温まった気持ちのまま、いざ目的地の宗次ホールへと向かいました。

会場「宗次ホール」の魅力 — 変わらぬ温かなお出迎えとお昼のコンサート

宗次ホール(むねつぐホール)は、愛知県名古屋市中区栄に位置する、クラシック音楽の響きを何よりも大切にした極上のコンサートホールです。実は私にとって宗次ホールは非常に思い出深い場所であり、オープン当初は会員として登録し、毎月のように何度も足を運んでいた大好きな空間でもありました。

このホールの素晴らしい特徴のひとつに、お昼の時間帯に開催される魅力的な企画コンサートを定期的に実施してくれている点があります。夜遅くに出歩くのが億劫に感じられる私のようなタイプにとって、明るい日差しが残る午後の時間帯に上質なクラシック音楽を堪能できる仕組みは、本当にありがたく、心から感謝したくなる取り組みです。

そして今回、2026年8月15日に訪れたのは、13時半から開演するスイーツタイムコンサート「チェロが奏でる 夏に聞きたい名曲選」です。

ホールに到着してまず胸が熱くなったのは、この素晴らしいホールをつくられた「カレーハウスCoCo壱番屋」の創業者である宗次德二さんが、今も変わらず入口に立ち、来場されるお客さま一人ひとりを温かい笑顔でお出迎えしてくださっていたことでした。何年経ってもお元気で、音楽と観客に対する愛情や姿勢が変わらないお姿に接し、ホールに入る前から非常に温かい気持ちで満たされました。

出演者のご紹介 — 地域と世界を結ぶお二人の奏者

今回のステージで素晴らしい演奏を聴かせてくださったのは、以下の2名の演奏家の方々です。

  • 唐沢安岐奈(からさわ あきな)さん — チェロ

  • 原田綾子(はらだ あやこ)さん — ピアノ

チェロを担当された唐沢安岐奈さんは名古屋市のご出身で、現在は日本を代表するオーケストラのひとつである読売日本交響楽団のチェロ奏者として精力的に活躍されています。

一方、ピアノを担当された原田綾子さんは愛知県春日井市のご出身で、愛知県立芸術大学を卒業された後、同大学院を修了。さらにハンガリーの最高峰である国立リスト音楽院へ渡り、深い研鑽を積まれた実力派のピアニストです。

実力と豊かな表現力を兼ね備えたお二人は2020年にも共演されており、今回の宗次ホールのステージでも、息の合った素晴らしいアンサンブルを聴かせてくれました。

コンサートプログラム — 2026年8月15日「チェロが奏でる 夏に聞きたい名曲選」

この日、宗次ホールのスイーツタイムコンサートで披露されたプログラムは、夏の季節感にあふれた非常に多彩で魅力的な構成となっていました。

【前半プログラム】

  1. 中田喜直(1923–2000):「夏の思い出」

  2. J.S.バッハ(1685–1750):無伴奏チェロ組曲 第1番より「プレリュード」

  3. 大中寅二(1896–1982):「椰子の実」

  4. ドヴォルザーク(1841–1904):「ユーモレスク」

  5. ベートーヴェン(1770–1827):チェロ・ソナタ 第2番より

    • 第1楽章 Adagio sostenuto ed espressivo – Allegro molto più tosto presto

    • 第2楽章 Rondo: Allegro

〜 休憩 〜

【後半プログラム】

  1. 成田為三(1893–1945):「浜辺の歌」

  2. フォーレ(1845–1924):「シシリエンヌ」

  3. いずみたく(1930–1992):「見上げてごらん夜の星を」

  4. ラヴェル(1875–1937):「ハバネラ」

  5. フランク(1822–1890):チェロ・ソナタより

    • 第1楽章 Allegretto ben moderato

    • 第2楽章 Allegro

    • 第3楽章 Recitativo – Fantasia, Ben moderato

    • 第4楽章 Allegretto poco mosso

【アンコール】

  1. 井上陽水:「少年時代」

  2. アストル・ピアソラ:「リベルタンゴ」

巧みな構成が生む音楽の旅 — 日本の叙情から西洋のクラシックへ

今回のプログラムを改めてじっくりと見返してみると、その曲順の組み立て方に非常に深い計算と意図が込められていることに気づかされます。

前半の1曲目から2曲目、3曲目から4曲目、そして後半の1曲目から2曲目、3曲目から4曲目、さらにはアンコールの1曲目から2曲目に至るまで、すべて「日本の誰もが知る名曲」から「海外のクラシック・ポピュラー名曲」という対の並びになっているのです。しかも、ただ曲を並べるだけでなく、曲間をあけずに連続して演奏するスタイルの工夫が凝らされていました。

たとえば、前半冒頭の組み合わせを見てみましょう。1曲目の「夏の思い出」は、日本人であれば子供のころから親しみ、歌詞やメロディを聞けば瞬時に情景が目に浮かぶ名曲です。そこに間を置かず続けられる2曲目のバッハ「プレリュード」は、歌詞のない器楽曲でありながら、まるでチェロという楽器そのものが雄弁に歌い出しているかのような深い響きを持っています。

つまり、まずは親しみやすい日本の歌によって聴き手の心に夏の風景や郷愁を鮮やかに思い浮かべてもらい、その心地よい余韻や情景を切ることなく、そのままチェロ本来の器楽的魅力がつまった西洋音楽の世界へと滑らかに導いていくのです。

日本人が長年愛してきた夏の歌を入り口に設定することで、敷居の高さを感じさせることなく、チェロという豊かな音色を持つ楽器を通じて世界の音楽を巡る旅へと連れ出してくれる、実にユニークで秀逸な構成だと感動しました。

一心不乱の演奏と息の合ったアンサンブル

実際の演奏は、ホール全体の空気が心地よく引き締まる素晴らしいものでした。

チェロの唐沢さんは、額に浮かぶ汗を拭いながら、大きなチェロをしっかりと抱え、まさに一心不乱という言葉がぴったりの熱量で弦を響かせていました。その音色は低音の豊かな深みから高音の繊細な歌い回しまで非常に表情豊かで、聴く者の胸にダイレクトに飛び込んできます。

そしてピアノの原田さんは、唐沢さんが作り出す緊張感や空気の変化を鋭く察知し、極上のタイミングで寄り添うようにピアノの清廉な音色を流し込んでいきます。お互いの音を信頼し合い、会話するように紡ぎ出される重奏は息がぴったりで、客席に座っている私たちを心地よい音楽の渦へと巻き込んでくれました。

クラシックの厳格な名曲はもちろんのこと、アンコールで披露された「少年時代」の郷愁を誘うメロディや、「リベルタンゴ」の情熱的で鋭いリズムに至るまで、すべての楽曲でお二人の高い集中力と音楽への深い愛が伝わってきました。

心に響いた言葉 — 演奏を超えて届く音楽への想い

唐沢さんは、2011年から現在に至るまで、この宗次ホールのステージに10回以上も出演されているそうです。長年このホールと観客を愛し、大切にされてきた姿勢が伝わってきます。

演奏の合間に行われたMCの中で、唐沢さんがおっしゃった言葉が今でも強く心に残っています。

「100回の練習より、1回の本番が大切なんです」 「これからもクラシック界を盛り上げていきたい」

妥協のない情熱をもってステージに立ち続けてきた演奏家だからこそ重みを持つその言葉に、胸が熱くなりました。

かつて自分自身も楽器を演奏していたからこそ、本番のステージという一期一会の空間が持つ特別なエネルギーや、そこでしか得られない成長の重みが痛いほど理解できます。チェロの胴体から響く美しい音色だけが「音楽」なのではありません。奏者がこれまでの人生で培ってきた熱量や、音楽に対する深い思いを乗せて語られる言葉もまた、聴く人の心を大きく動かすもうひとつの素晴らしい「演奏」なのだと強く実感させられました。

おわりに — 再び音楽とともに歩む日常へ

かつて健康上の理由で演奏をやめて以来、どこか音楽に対して遠慮がちな気持ちを抱き、ホールから足が遠のいていた私でした。しかし今回、久しぶりに訪れた宗次ホールで「チェロが奏でる 夏に聞きたい名曲選」を鑑賞したことで、音楽が持つ本来の温かさや、生の演奏が心に与えてくれる癒やしの力を再発見することができました。

終演後、ホールを出ると夏の風が心地よく感じられ、胸の中がすっきりと澄み渡っているのを感じました。

素晴らしい演奏を届けてくださった唐沢安岐奈さん、原田綾子さん、そしていつ訪れても変わらない温かい空間を提供してくれる宗次ホールと宗次德二さんに、心からの感謝を申し上げます。素敵な時間を本当にありがとうございました。

 


地図

データ

  • 所在地:〒460-0008 愛知県名古屋市中区栄4丁目5−14

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