【瀬戸万博記念公園・あいち海上の森】八草駅から歩いて巡る歴史と自然の拠り所(愛知県瀬戸市の旅 : 2026-05-10)
瀬戸万博記念公園・あいち海上の森 (愛知県瀬戸市)
2026年5月10日、私は愛知県瀬戸市にある「瀬戸万博記念公園」と、それに隣接する広大な自然エリア「あいち海上の森」を訪れました。
2005年に開催された愛・地球博(愛知万博)の当時、私は関西に住んでいたため、万博そのもののリアルタイムな思い出はありません。しかし、それから10年が経過した2015年3月29日、瀬戸万博記念公園で開催された「愛・パークイベント」に足を運んだことがあります。当時は「あいち戦国姫隊」の華麗な演舞などが披露され、多くの人で賑わっていました。その楽しかった記憶がずっと心に残っており、今回は実に11年ぶりとなる再訪を決意したのです。
とはいえ、瀬戸万博記念公園自体は決して大きな公園ではありません。せっかく遠出をするのであれば、公園の散策だけで終わらせてしまうのはもったいないと考えました。そこで、まずは瀬戸万博記念公園に隣接し、豊かな自然が広がっているという「あいち海上の森」から旅をスタートすることにしました。
八草駅から始まる里山へのアプローチ
今回の旅の出発点に選んだのは、愛知高速交通東部丘陵線(リニモ)と愛知環状鉄道の2つの路線が乗り入れる「八草駅」です。ここから北へ向かって歩みを進めていきます。
駅からしばらく歩くと、右前方に愛知工業大学の大きなキャンパスが見えてきました。ここからは大学の敷地に沿うようにして、西側を通る523号線をまっすぐ北へと進みます。
道なりに歩いていくとやがてT字路に差し掛かり、そこに「海上の森入口(南門)」が現れました。ここが、今回の自然散策のゲートとなります。緊張と期待を胸に、さっそく森の中へと足を踏み入れました。
「自然の叡智」を受け継ぐあいち海上の森の歴史
ここで、今回訪れた「あいち海上の森(かいしょのもり)」について少しご紹介します。この場所は名古屋市の中心部から車で約40分というアクセスの良い立地にありながら、昔ながらの日本の里山の風景がそのまま残されている非常に貴重な自然エリアです。単なる森林だけでなく、湿地やため池、田畑、そして小さな小川が一体となっており、多様な動植物が生息する豊かな生態系が構築されています。
この森が全国的に知られるようになったきっかけは、やはり2005年の愛・地球博でした。当初の計画では、この海上の森の一部を万博のメイン会場として大規模に開発する予定だったそうです。しかし、調査が進むにつれて、森には大変貴重な自然環境が残されており、絶滅危惧種であるオオタカなどの希少な生き物が生息していることが判明しました。
これにより、開発の是非を巡って大きな議論が巻き起こることになります。結果として環境保護の観点から計画は大幅に見直され、森の大部分が開発を免れて保全されることになりました。現在では、万博の理念であった「自然の叡智」をそのまま体現し、受け継いでいく場所として、行政や市民の手によって大切に守られています。
深い森の静けさとスリリングな山道
あいち海上の森にはいくつかの入り口がありますが、管理事務所などがある「あいち海上の森センター」側の正門とは異なり、私が立ち入った南門側は入った瞬間から本格的な森林地帯が広がっていました。
初めて一人でこの場所を訪れる身としては、想像以上に生い茂る木々と静けさに、どこか畏怖を覚えるような雰囲気が漂っています。この地域はイノシシが出現することでも知られており、さらに奥地に位置する猿投エリアではツキノワグマの目撃情報もあるとのこと。もともと山道や本格的な登山があまり得意ではない私は、周囲の物音に耳を澄ませながら、恐る恐る園内を進んでいきました。
園内の案内地図を確認すると、敷地内には「繭玉広場」「窯の歴史館」「物見の丘」「あいち海上の森センター」といった見学施設や展望スポットが点在していることがわかります。その中でも「物見の丘」は素晴らしい景色が望めるビュースポットとして人気があるようですが、地図上で確認すると、今回の最終目的地である瀬戸万博記念公園側からはかなり離れた位置にあります。体力を考慮し、今回は物見の丘へのルートを断念。その代わりに「繭玉広場」「窯の歴史館」「あいち海上の森センター」を順番に巡るルートを選択しました。
里山に佇む斬新な建築「繭玉広場」
南門から歩き始めて最初に到着した見どころが「繭玉広場」です。
森の中に突如として現れたその建物は、まるで建築家がこだわりを詰め込んで建てたオリジナル住宅のような、非常に斬新なデザインをしていました。実際に生で目にすると、その独特な存在感に思わず圧倒されます。
この建物は、この里山に生息している「山繭(やままゆ)」をモチーフにして設計された、丸みを帯びた木造建築です。湾曲させた集成材を巧みに組み合わせることで、球体に近いユニークな外観を実現しており、奇抜でありながらも不思議と周囲の木々や景観に溶け込むように建てられています。
建物の内部にはスタッフなどの人は常駐しておらず、基本的には無人の施設となっています。中に入ると、訪れた人が自由に休憩できるスペースや、自然学習のための展示が用意されていました。周囲の静寂と相まって、木の温もりに包まれた非常に穏やかで心地よい空間が広がっていました。
千年の歴史を今に伝える「窯の歴史館」
繭玉広場で一息ついた後、ここから新緑の美しい葉を茂らせた散策道をさらに上へと登っていきます。訪れたのが午前中という時間帯だったこともあってか、散策道ですれ違う人は誰一人としていませんでした。少し心細さはありましたが、道自体はしっかりと整備されていたため、足元を気にすることなく安心して歩くことができました。
再びイノシシなどの野生動物が飛び出してこないかとドキドキしながら山道を進んでいくと、やがて高台の上にひとつの建物が見えてきました。ここが次の目的地である「窯の歴史館」です。
窯の歴史館では、瀬戸焼の長い歴史を支えてきた平安時代中期の古窯跡が、発掘された当時の姿に近い状態でそのまま保存・展示されており、誰でも自由に見学することができます。展示されている登り窯の構造や、実際にここから出土した陶器の数々を見つめていると、1000年以上も昔のこの地で営まれていた窯業の様子がありありと浮かんできます。
瀬戸という土地が、本当に古くから焼き物の産地として栄え、日本の工芸を支えてきたのだという歴史の重みを身近に実感することができました。ちなみに、この資料館の建物自体も、柱の間に横木を通すことで強度を保つ「貫構造」という伝統的な建築技法が採用されているそうです。
万博の記憶を繋ぐ「あいち海上の森センター」
窯の歴史館を見学した後は、今度は坂道を下るルートを進み、さらに北へと歩いていきました。すると正面に、立派な大型の施設が見えてきます。これがあいち海上の森の拠点施設である「あいち海上の森センター」です。
このあいち海上の森センターは、2005年の愛・地球博の開催時に「瀬戸愛知県館」として実際に使用されていたパビリオンを活用した施設です。建物は地上3階・地下1階建てという立派な構造で、現在は海上の森の豊かな自然や、この地に息づく里山文化を広く一般に伝えるための総合学習拠点となっています。
館内に入ると、森に生息する生き物や自然環境に関する分かりやすい展示スペースがあり、情報ライブラリーなども併設されていました。散策を始める前にここに立ち寄れば、森の魅力や見どころをあらかじめ深く予習することができます。私が訪れたタイミングでは、館内で自然体験教室が開催されていたようで、ボーイスカウトのような制服を着た子供たちがたくさん集まり、賑やかな声を響かせていました。万博が掲げた「自然の叡智」という理念をしっかりと受け継ぎ、現代の子供たちが人と自然の共生について学べる素晴らしい場所として、今も多くの来訪者を迎え入れていることが伝わいてきました。
11年ぶりの瀬戸万博記念公園と、変わりゆく景色
あいち海上の森センターの見学を終え、いよいよ今回の旅の主目的である「瀬戸万博記念公園」へと向かうことにしました。11年前に私が訪れたあのイベントステージは、あいち海上の森センターから目と鼻の先にあるはずです。当時の記憶を頼りに、最短ルートで向かおうとしました。
しかし、現地に行ってみると想定外の事態が起こりました。ルートの途中が頑丈な柵で遮られており、その先は深い森林地帯となっているため、そのまま直進して通り抜けることができなくなっていたのです。仕方がなくスマートフォンの地図を確認しながら、約800mほど離れた迂回ルートを大きく回り道することになり、かなりの時間をかけてようやく目的地付近へと到着しました。
ところが、ようやく辿り着いたものの、2015年3月29日に「愛・パークイベント」が行われた思い出のエリアは、現在では隣接する愛知工業大学の敷地の一部として組み込まれており、一般の立ち入りができないよう通行止めになっていました。
現在の瀬戸万博記念公園は、その道路を挟んだ西側にある、四方約40mほどの非常に小さな区画のみとなっています。楽しかった思い出の詰まったかつてのイベントエリアに足を踏み入れることができなかったのは少し残念ではありましたが、気を取り直して、現在の瀬戸万博記念公園の内部をじっくりと見学することにしました。
自然に還る博覧会跡地で「自然の叡智」を想う
現在の瀬戸万博記念公園は、2005年に開催された愛・地球博の熱気と理念を静かに今へと伝える、落ち着いた佇まいが大きな魅力となっている公園です。かつてこの広大な一帯には「瀬戸会場」が設けられ、世界中から訪れた多くの来場者が自然との共生について考え、学びを深めていました。
現在の園内には、当時のような大規模なパビリオンや華やかな商業施設などは残されていません。しかし、施設がないからこそ、周囲には本来の美しい里山の風景がゆったりと広がっています。まさに万博が目指した「自然の叡智」の本質を、自らの肌で直接感じながらのんびりと散策を楽しむことができました。
園内を歩いていると、周囲からは絶え間なく鳥のさえずりが響き渡り、万博会場として多くの人々で埋め尽くされていた場所だとは到底信じられないほど、穏やかで贅沢な時間が流れていました。それでも園内のいたるところには、万博の開催を記念したモニュメントが点在しています。当時の様子を記録した写真や、詳細な案内板をひとつひとつ丁寧に眺めながら歩いていると、21世紀最初の国際博覧会という壮大な歴史の1ページが、確かにこの場所で刻まれたのだという事実に深く思いを馳せることができました。
派手な観光地のような華やかさはなくとも、自然と歴史の調和を感じられる、非常に有意義な初夏の徒歩旅となりました。
地図・アクセス(あいち海上の森センター)
〒489-0857 愛知県瀬戸市吉野町304−1





















































