明治の鉄道遺産が息づくJR加太駅と市場川橋梁を巡る散策旅(三重県亀山市の旅:2026-08-29)

 

JR加太駅・市場川橋梁(三重県亀山市)

2026年8月29日、三重県亀山市に位置する「加太(かぶと)」地区を訪れました。

以前から、大好きなTV番組「道との遭遇」で紹介されていた「加太梶ヶ坂の流れ橋」と「市場川橋梁」を、どうしても自分の目で一度見てみたいと思っていました。ちょうどこの日、地元で別の用事があったため、用事を済ませた後に急遽足の向くまま現地へ向かうことにしました。突発的な一人旅だったこともあり、今回は昔使っていた旧式のスマートフォンで撮影を行いました。写真の画質が少し粗い部分もありますが、どうかご容赦ください。

前々からずっと訪れたいと憧れていた加太エリアですが、実を言うとこれまでなかなか足を運べずに二の足を踏んでいました。というのも、JR関西本線は電車の運行本数が1時間に1本程度と非常に少なく、車両数も少ないため時間帯によっては車内が混雑します。さらに名古屋方面からアクセスする場合、途中の亀山駅でのお乗り換えが必要になるなど、思った以上に移動の時間がかかってしまうからなのです。三重県民の感覚からすると、普段の移動にはどうしても近鉄電車を使うことがほとんどなので、JRに乗って行く旅は少しだけ心理的なハードルが高かったりします。ですが、今回思い切って一歩を踏み出して本当に良かったと感じています。

◆加太地区の歴史と今回の散策ルート

三重県亀山市の西部に位置する加太地区は、鈴鹿山脈の豊かな自然と穏やかな山あいに抱かれた静かな地域です。一見すると非常にのどかな山里に見えますが、ここにはかつて多くの人や物資が行き交った「旧大和街道」と、明治時代に日本の近代化を支えた鉄道建設の歴史を今に伝える貴重な遺構が数多く遺されています。

今回の旅では、加太川の美しいせせらぎと豊かな景観を眺めながら、以下の4つのスポットを歩いて巡り、この土地に刻まれた深い歴史の足跡をたどることにしました。

  1. JR加太駅

  2. 市場川橋梁

  3. 神福寺

  4. 加太梶ヶ坂の流れ橋

鉄道遺産という近代の歴史から古刹(古くからの寺院)、昔ながらの街道と川を渡る素朴な橋へ。加太川の流れに沿ってのんびりと歩いていると、時の流れが少しゆっくりになったかのような不思議な感覚を味わえます。そして散策の最後には、地域の方との思いがけない心温まる楽しい出会いも待っていました。

なお、今回の加太散策の様子は内容が盛りだくさんなため、前編と後編の2回に分けてお届けします。第1回となる今回は、旅のスタート地点である「加太駅」と、明治の土木技術の粋を集めた「市場川橋梁」の2箇所について詳しくご紹介します。

◆明治の趣を残す木造駅舎とあたたかな出会い「JR加太駅」

旅の起点となる「加太駅」は、三重県亀山市加太市場にあるJR関西本線の駅です。緑豊かな山々にぐるりと囲まれた静かな環境にあり、都会の大規模な駅や近代的な駅舎とはまったく異なる、どこか懐かしく落ち着いた情緒あふれる雰囲気が漂っています。

この加太地区には、古くから伊勢方面と大和方面(現在の奈良県)を結ぶ重要な交通の要衝として「旧大和街道」が通っていました。旅人や商人、数々の物資が行き交う街道として、山あいの集落の暮らしと文化を長年にわたって支えてきた豊かな歴史が存在します。その後、時代が明治へと移り変わると、日本各地で近代化に向けた鉄道建設が急速に進められることになります。関西本線の前身にあたる「関西鉄道」が開業し、それに伴ってこの加太駅も1896年(明治29年)に産声をあげました。

駅に設置されている跨線橋(歩道橋)に登り、上から静けさに包まれた山あいの景色やまっすぐに伸びる線路を眺めていると、現代の列車が走り抜ける日常の風景と、かつて草鞋を履いて街道を賑やかに往来していた人々の姿が重なり合うような、不思議でノスタルジックな感慨に浸ることができます。そんな加太の長い歴史に思いを巡らせ、ワクワクした気持ちを胸に、最初の目的地である「市場川橋梁」に向かって歩き始めることにしました。

ちなみに、今回の加太散策をすべて終えた帰り際、電車を待つために再びこの加太駅へと立ち寄りました。駅舎の中には訪れた人が腰を下ろせる小さな休憩スペースがあるのですが、そこには地元のお母さんがいらっしゃいました。「どこから来たの?」と優しく声をかけてくださり、ありがたいことにあたたかいお茶までご馳走になりながら、しばしの間二人で楽しくお話をさせていただくことになりました。

電車が到着するまでの待ち時間、話題はもちろん今回歩いた加太の旅の思い出について。お母さんとの楽しい会話に花が咲き、1時間に1本という次の電車までの待ち時間も、びっくりするくらいあっという間に過ぎ去っていきました。それだけではなく、地元に大切に保管されている昔の貴重な写真を見せていただいたり、今回訪れた場所有外にも「ここも素敵なところだから、ぜひ行ってみるといいよ」と加太駅周辺のおすすめスポットを教えていただいたりと、思いがけない素晴らしい収穫がありました。

旅先での本当の楽しみというのは、歴史ある有名な建物や美しい自然の景色に出会うことだけではありません。こうして現地で暮らす地元の方との何気ないあたたかい会話を通して、その土地の本当の魅力や人の温もりに触れられることこそが、自分の足でじっくり歩いて巡る旅の最大の醍醐味なのだと痛感しました。お母さんに教えていただいたおすすめの場所は、次回また加太を訪れる際の楽しみに大切に取っておきたいと思います。

◆明治の土木技術とひんやりとした涼感に感動「市場川橋梁」

加太駅から静かな線路沿いに伸びる遊歩道をゆっくりと進み、最初に向かったのが「市場川橋梁(いちばがわきょうりょう)」です。

一般的に「鉄道の橋」と聞くと、川の上に大きな鉄骨を組み上げて架けられた灰色の鉄橋をイメージされる方が多いのではないでしょうか。しかし、この市場川橋梁はそれとは大きく異なり、赤煉瓦を美しく積み上げて造られた美しいアーチ形状が強く印象に残る構造物となっています。線路の下を小さな川の水が滑らかに通るように工夫して造られており、明治時代における日本の初期鉄道建設の歴史と技術を現代に力強く伝える貴重な遺構です。

ひとつひとつ丁寧に煉瓦を積み重ねて美しい曲線を描くアーチには、当時の技術者や職人たちが注ぎ込んだ並々ならぬ情熱と工夫がはっきりと感じられます。普段、私たちが電車に乗って目的地へ移動しているだけでは、足元にあるこうした構造物にじっくりと目を向ける機会は滅多にありません。しかし、こうして実際に自らの足で現地へと運び、間近で観察してみると、線路の下でひっそりと列車を支え続けている橋梁そのものが、極めて見応えのある歴史的建造物であることに深く気づかされます。

市場川橋梁の魅力は、単に「明治時代の古い建造物が綺麗に残っている」ということだけにとどまりません。美しい煉瓦の積み方の様式や、要所で使用されている丈夫な石材との絶妙な組み合わせ、そして何よりも驚かされるのが、まるで足場が宙に浮いているかのように取り付けられている細部の構造など、細かなポイントに注目することで、当時の高度な土木技術をより身近に実感することができます。

そして、この場所に足を踏み入れて一番驚いたのが、とにかくめちゃめちゃ涼しいこと。アーチの影に入ると、周囲には心地よいひんやりとした空気が満ちており、さきほどまで散策で感じていた夏の蒸し暑さがまるで嘘だったかのように吹き飛びました。歴史遺産の素晴らしさと同時に、天然の涼感スポットとしても最高の場所です。

鉄道の歴史というと、つい華やかな蒸気機関車や歴史ある駅舎の建物ばかりに目を奪われがちです。しかし、こうした地味ながらも頑丈な橋梁やトンネルもまた、日本全国に張り巡らされた鉄道網を安全に築き上げてきた先人たちの偉大な仕事を今に伝える、非常に大切な文化遺産なのだと感じます。鈴鹿山脈の険しい地形に合わせて巧みに線路を通し、自然の水流を妨げないように強固な橋を設置する。自然の厳しさと誠実に向き合いながら交通網を整備してきた先人たちの知恵と努力に、深く思いを馳せる素晴らしいひとときとなりました。

◆次回、後編へ続きます

市場川橋梁の素晴らしさにすっかり魅了された後は、再び加太駅の周辺エリアへと戻り、かつての賑わいを想起させる「停車場跡道標」を通り過ぎました。すると、そのすぐ右手の静かな高台に見えてきたのが、次なる目的地の「神福寺」です。

次回のブログでは、この歴史ある「神福寺」の境内の様子と、今回の旅の最大の目的地でもある「加太梶ヶ坂の流れ橋」の魅力をあわせてたっぷりとご紹介します。

所在地:市場川橋梁

〒519-1122 三重県亀山市加太市場1585

 

 

 

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