広瀬やな:矢作川の夏を味わう念願の鮎尽くし旅 (愛知県豊田市の旅 : 2026-07-20)
広瀬やな(愛知県豊田市)
木々の緑が深く茂り、川を渡る風が心地よく頬を撫でる季節。以前からずっと訪れたいと心に決めていた場所へと足を延ばしました。目的地は、豊田市を流れる矢作川の名所として知られる「広瀬やな」です。
実は、この場所を訪れる伏線は数ヶ月前にありました。その年の5月5日、かつて名鉄三河線の一部として地域を支えていた旧三河広瀬駅を散策した際、すぐ近くに広瀬やながあることを知ったのです。
旧三河広瀬駅の廃線跡を歩く!時が止まったホームと新緑のレールが織りなす浪漫 (愛知県豊田市の旅 : 2026-05-05)
しかし、当時はまだシーズンが始まる前。営業は行われておらず、やな自体もまだ川には設置されていませんでした。ただ、静かに流れる新緑の川辺を眺めながら、鮎が大好物だった私は「いつか本格的なシーズンが来たら、絶対に営業期間中に再訪して、獲れたての鮎を心ゆくまで味わおう」と固く心に誓っていたのです。
私の両親は無類の鮎好きでした。子供の頃を振り返ると、夏休みになると家族で岐阜県のやな場へと何度か出かけ、鮎料理を味わったものでした。川のせせらぎを聞きながら過ごした時間は、今でも大切な思い出として胸に刻まれています。その影響は今も色濃く残っており、普段の生活のなかでも、スーパーの鮮魚コーナーで鮎の塩焼きを見かけると、ついつい嬉しくなって手が伸びてしまうほどです。そんな思い出もあり、今回はまさに満を持しての、2ヶ月越しとなる念願の広瀬やな訪問となりました。
浄水駅から広瀬へ:大盛況のやな場と相席の出会い
旅の始まりは、名鉄豊田線の浄水駅です。
【今回はカメラを忘れ、旧式のスマホ撮影のため、画質は悪いです。ごめんなさい】
前回、旧三河広瀬駅を訪れた際は愛知環状鉄道の四郷駅からアプローチしましたが、今回は移動のしやすさとルートの利便性を考慮し、駅前から出発する「とよたおいでんバス」を利用することにしました。車窓から流れるのどかな風景を眺めながらバスに揺られ、「西広瀬」のバス停で下車します。そこから少し歩くと、目指す広瀬やなが見えてきました。
お昼時の大きな混雑をあらかじめ避けようと考え、午前11時頃という少し早めの時間帯に現地へ到着したのですが、その見立ては少々甘かったようです。現地に到着すると、すでに広瀬やなは多くの来客で大盛況、まさに「満員御礼」という言葉がぴったりの賑わいを見せていました。本格的な夏休み期間に入る前であったにもかかわらず、家族連れをはじめとする多くの人々が詰めかけており、この場所がどれほど地域内外の人々に愛されているかを肌で実感しました。矢作川の流れに沿って吹き抜ける風は優しく心地よいものの、やな場周辺の活気はすさまじく、人々の笑顔があちこちに溢れていました。
まずは食券売り場の列に並び、お目当てだった「A定食」を購入しました。15分ほど列に並んで無事に発券を済ませたものの、ここで想定していなかった小さな壁が立ちはだかります。こちらの広瀬やなでは、事前に座席を確保してもらえるのは予約客のみというシステムになっていたのです。つまり、料理の食券を手にすることはできても、自由に座れる一般席は自分自身で探さなければなりませんでした。
敷地内には開放的な屋外席と、屋根のある室内席の2つのエリアが用意されています。屋外での食事は厳しいと感じるほどの暑さだったため、エアコンが少し効いた室内席が空くのをしばらく待ち続けることにしました。粘り強く待った甲斐があり、ようやく席を確保することができたのですが、そこは4人がけのテーブル席。この大混雑のなかで、自分1人だけでこの広いテーブルを占有して使うのは、周囲に対してどこか申し訳ないような気持ちが湧いてきました。
どうしたものかと思案しながら周囲をそっと見渡してみると、やはり私と同じように席が見つからず、困り果てた様子で立ち尽くしている1組のご夫婦の姿が目に留まりました。
そこで私は思い切ってそのご夫婦にお声掛けをし、「相席になりますが、ご一緒にいかがですか」とテーブルへ招き入れることにしました。ご夫婦は非常に喜んでくださり、快く応じていただくことができました。
お互いに席につき、料理が届くまでの間、自然と会話が始まりました。お話をしてみると春日井方面から来られた方々で、私も土地勘がある地域だったことから話が弾みます。気が付けば食事の時間を含めて1時間以上。旅先での偶然の出会いが、食事をさらに楽しいものにしてくれました。一期一会の出会いがもたらしてくれた温かい時間は、一人旅の食事を何倍も豊かなものへと変えてくれました。
贅を尽くしたA定食:五感で味わう鮎料理の数々
そんな楽しい会話に華を添えてくれたのが、今回注文した豪華な「A定食」(4,000円)です。席に運ばれてきたお料理は、まさに最初から最後まで鮎の魅力を余すことなく詰め込んだ、文字通りの「鮎尽くし」でした。その内容は以下の通りです。
-
鮎の塩焼き(2本)
-
鮎の甘露煮
-
小鮎のフライ
-
鮎ご飯
-
鮎の刺身
まずいただいた鮎の塩焼きは、程よい塩加減で焼き上げられていました。皮は香ばしく、身はふっくらとしていて、鮎ならではの爽やかな香りがしっかりと感じられます。並んでいる間にたっぷりとかいた汗の分、塩気が体に心地よく染み渡るようで、夏のごちそうとして申し分のない美味しさでした。続いて箸を伸ばしたのは「鮎の刺身」です。透き通るような身は見た目にも涼しげで、口に入れるとコリコリとした食感が楽しめます。川魚の刺身に対して独特の臭みを想像する方もいるかもしれませんが、そのような印象はまったくなく、とても上品な味わいでした。
さらに「鮎ご飯」は、鮎の旨味に加えて、どこかうなぎの蒲焼きを微かに思わせるような甘辛い味付けがされており、食欲をどんどん引き出してくれます。思わず箸が止まらなくなるおいしさでした。
こうして目の前に並ぶ見事な鮎尽くしの料理を味わっていると、やはりかつて両親と一緒にやな場へ出かけた夏の記憶が自然と頭をよぎります。鮎が大好きだった両親の顔が懐かしく思い出され、天国にいる私の両親にも食べさせてやりたかったな、としみじみと感じました。
伝統が息づくやな場:矢作川の夏の風物詩を五感で満喫
食事を終えた後、周辺を少し散策することにしました。広瀬やなの大きな魅力は、こうした絶品のお料理をいただくだけにとどまらず、実際の「やな場」を間近に体感できる点にあります。川辺へ視線を移すと、そこには5月には影も形もなかった立派なやなが構築されており、その上では「鮎のつかみ取り」が行われていました。水しぶきを元気よく上げながら、すばしっこく泳ぎ回る鮎を懸命に追いかける子供たちの歓声が、あちこちから響き渡っていました。
水しぶきを上げて楽しむ子供たちの姿を見ていると、かつて自分もこうして両親に連れられて、川辺で鮎取りをして過ごした夏の風景がふと重なります。伝統的なやな漁がもたらす矢作川の夏の風景は、ただ美しいだけでなく、私にとって両親との大切な思い出をそっと手繰り寄せさせてくれる、どこか感慨深い場所となりました。
素晴らしい鮎料理との出会い、旅先で偶然席を共にしたご夫婦との心温まる会話、正式に設置されたやなの迫力、そして矢作川の歴史ある美しい風景。広瀬やなで過ごしたすべての時間が、まさにこの季節の魅力を五感のすべてを使って全身で味わい尽くす、かけがえのないひとときとなりました。
ただし、今回の充実した旅を通じて、これから訪れる方々へお伝えしたい大切な教訓が1つだけあります。もし広瀬やなを訪れて食事を計画されるのであれば、事前の座席予約は間違いなく「必須」であるということです。特に週末や、本格的な夏休みのシーズンを迎えると、現地は想像以上の混雑を見せます。限られた旅の時間を有効に使い、落ち着いてお料理を堪能するためにも、あらかじめ席を確保して向かわれるのが何よりも安心です。
大満足の食事を終えた私は、再び歩いて旧三河広瀬駅へと立ち寄りました。5月に訪れた時とは異なり、今回は念願だった鮎料理をしっかりと味わった後ということもあり、静かに佇む古い駅舎の姿が、また少し違った趣を持って優しく出迎えてくれたように感じられました。
2ヶ月前の宿題をようやく果たし、心からの念願が叶った素晴らしい1日。今回の旅は、単に美味しい川魚を味わうという目的を超えて、矢作川が育んできた豊かな自然や、受け継がれてきた地域の伝統文化に触れる旅であり、それと同時に、どこか懐かしい両親の面影を胸に抱きながら歩くような、温もりに満ちた時間となりました。心地よい余韻を胸に抱きながら、私はゆっくりと帰路につきました。
地図:広瀬やな
〒470-0309 愛知県豊田市西広瀬町市場203

























